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沖縄の本土復帰とともに、配備された自衛隊。災害時の救援活動や不発弾処理など県民を守る場面がある一方、「国の防衛」を担っています。北朝鮮のミサイル発射や尖閣諸島での中国公船による領海侵入などで日本の安全保障について議論が、展開されるなか政府が進める「南西シフト」。この「南西シフト」から沖縄の今を見つめます。

先月25日、琉球弧シンポジウム。桜井国俊沖縄大学名誉教授「2013年の12月に自衛隊の南西シフトが打ち出されて、与那国、石垣、宮古、奄美と次々と部隊配備が進んでいます。沖縄本島にもミサイル基地が造られ、鹿児島県の馬毛島にも自衛隊基地が造られようとしています」

先月、那覇市内では、自衛隊の南西シフトに伴う問題について考えるシンポジウムが開催されました。

ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会 山城博治共同代表「50年前、(自衛隊の)第1混成団が(沖縄に)やってきました。当時は3000人の自衛隊が来ました。私たち労働組合は那覇市役所等に結集して、自衛隊の住民登録を拒否せよと、自衛隊を沖縄県民に認めるなと」

復帰50の物語 第26話「南西シフト」の先にあるもの

50年前、本土復帰とともに、沖縄に配備された自衛隊。しかし、凄惨な地上戦を経験した県民にとって自衛隊は「住民を守らなかった」旧日本軍の姿と重なり、抗議デモなどが行われました。それから50年。今、県民にとって自衛隊と言えば、災害支援を始め、離島における緊急搬送や不発弾処理のイメージが浸透しているかもしれません。

一方で、中国船の度重なる領海侵入や北朝鮮のミサイル発射など、日本の安全保障環境が厳しい状況になっているとして、防衛省は「空白地帯を埋める」と南西シフトを打ち出し、南西諸島への自衛隊配備を進めてきました。

「南西シフト」に伴う主な自衛隊配備状況。2016年、陸自与那国沿岸監視隊配備、2019年、陸自奄美警備隊配備、2019年、陸自宮古警備隊配備、2022年中にも陸自部隊(配備予定)

軍事要塞化していく琉球弧の島々。

リポート「日本最西端に位置する与那国島です。この海の向こうおよそ100キロ先に台湾があります。復帰から50年、自衛隊の南西諸島への重点配備いわゆる「南西シフト」が進められてゆく島々から今、平和について見つめなおします」

日本の最西端に位置する与那国島。当時人口1500人ほどだったのこの島に2016年、陸上自衛隊の駐屯地が開設され、隊員およそ150人とその家族が移り住んできました。与那国沿岸監視隊の主な任務は、広大な海を行きかう船舶の情報収集です。自衛隊配備から6年、島に住む人たちは何を感じているでしょうか。

島民「子どもは増えてますね。元々複式が多かったみたいなので」

復帰50の物語 第26話「南西シフト」の先にあるもの

島民「心配はある。だってこっち逃げる場所もないし、逃げるとしたら、船か飛行機しかないから。自衛隊が来て、人は増えたけど。なんかあったらすぐ対応してくれるかは分からないし」

糸数健一与那国町長「自衛隊の方にできるだけ、ご家族帯同で来ている、特にお子さんがいらっしゃる方を中心にしていただけないかということを申し上げておりまして、非常にご協力いただいている」

自衛隊員の子どもたちが移り住んできたことで、異なる学年が同じ教室で授業を受けていた複式学級が解消され、教育現場にプラスの変化があったと話す与那国島の糸数町長。しかし、一方で、「台湾有事」に対する不安もありました。

糸数健一与那国町長「私はこの島の町民の命を預かる立場にあるわけだから、一夜にしてこの島の町民を、もし万が一何かあったときは先に疎開させることはしないといけない」

与那国町では自衛隊配備の翌年、有事の際の島民の保護と避難を目的として、国民保護法にもとづく保護計画を策定しました。しかし、ひとつの離島自治体だけで、島民の保護や避難を行うのは、難しい現状があると言います。

糸数健一町長「今の国民保護法は、各自治体が対応しなきゃいけない状況になっている、できるわけないんですよ。自衛隊の皆さんを除いて、町民だけになりますと1500人ですからね。飛行機だってめいいっぱい乗れて50人ぐらいしか運べないわけですから。(飛行機を)30回も飛ばさないといけない」

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人口およそ5万5千人の宮古島に陸上自衛隊の駐屯地が開設されたのは2019年。現在の隊員数はおよそ700人となっています。宮古島駐屯地には、中国海軍の進出や北朝鮮などに対する南西諸島の防衛を主な任務とする警備隊のほか、ミサイル部隊が配備されています。

仲里成繁さん「奄美から始まってね。先島に自衛隊配備すること自体が戦争を想定した自衛隊の部隊だと考えていますんで、これから命を脅かすような施設ができたということはもう、ものすごい憤りを感じます」

駐屯地と道をはさんだ真向いの畑で、農業を営む仲里成繁さん。自衛隊の配備に対して、強い憤りを感じていました。軍備による抑止力ではなく、政府による外交努力を積み重ねるべきだと仲里さんは指摘します。

仲里成繁さん「抑止力という観点から言えば、仮想敵国との普段からの外交が一番の抑止力にはなるべきだと僕は思うんですよね。軍備での抑止っていうのは、これはあり得ないと思います」

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駐屯地の工事が進む石垣島。人口およそ5万人のこの島では、今年度末にも、隊員数およそ500人からなるミサイル部隊などが配備されようとしています。街中では、自衛隊員の暮らす場所となる宿舎の建設工事が進められていました。

金城龍太郎さん「(石垣市民の意思が)見えないまま(工事が)進んでいってるんで、反対の人は反対が多いはずなのに、何で進めているかって怒るし。賛成の人は賛成が多いのに、なんでまだ反対運動をずっとやっているばって怒ってる。ずっと怒ってる状態が続いてるんです。それが本当にその中で暮らすのはつらい」

石垣市住民投票を求める会の代表、金城龍太郎さん。自衛隊配備をめぐって島に暮らす人たちの意思を確認するため住民投票を求めてこれまで様々な活動を行ってきましたが、今も、住民投票は実施されていません

金城龍太郎さん「例えば、推し進めたい方からすると、備えておけば安心だから、こっちを攻められないように、守るために置いておくんだよという考え方もあるんですけど、攻撃的なミサイルを置くこと自体が一線を越えてしまっているというか」

ミサイル部隊の配備に対して、「一線を越えている」と話す金城さん。配備計画には、島に住む人たちの意思を確認するという最も大切なプロセスが欠けていると言います。

金城龍太郎さん「今、石垣島の住民がどう思っているかというのがずっとわからないまま工事だけが進んでいるので、すごくプロセスが欠けた計画になっているのではないかと思っています」

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今、ウクライナではロシアの侵攻により、ミサイルが飛び交う”戦争”が現実のものとなりました。

桜井国俊沖縄大学名誉教授「最悪なものそれは戦争です。台湾有事は日本有事だとか言ってますけど、今度の戦争は核が飛び交う可能性があります。核が飛び交うということになれば、それは沖縄だけでは済まない」

ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会 山城博治共同代表「現在、第15旅団ができて、今8000人の自衛隊がいると言われています。これは、さらにどんどんと拡大して、1万、2万人と大部隊になっていくでしょう」

戦争を起こさせないための自衛隊配備なのか、そもそも自衛隊配備、それ自体が戦争につながりかねないのではないのか。

糸数健一与那国町長「なんとしても(中国に)よこしまな考えを起こさないようにする努力が今の日本政府の外交に、特に外務省にはその努力が求められているなと思います」

仲里成繁さん「戦争につながるような施設は撤去してほしい」

金城龍太郎さん「違う考えも存在していいし、認め合っていけるような島になったらいい」

南西シフトがもたらす未来は果たして、再びあの沖縄戦の悲劇が繰り返されない平和な島の未来へと、むかっているのでしょうか。

復帰50の物語 第26話「南西シフト」の先にあるもの