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2018年に「登録延期」の勧告を受け、推薦地の見直しを行うなどをして、ついに世界自然遺産へ正式に登録される見込みとなっている「沖縄島北部と西表島」多様な生物たちが生息する自然豊かな森・やんばるですが解決されていない問題がありました。

それは半世紀以上、訓練場として使用していたアメリカ軍が残した大量の廃棄物がそのまま放置されています。国は税金を費やし、原状回復を行ったとしていた返還地の現状を追いました。

世界自然遺産に登録される見通しのやんばるの森を含む「沖縄島北部と西表島、奄美大島、徳之島」しかし、ここまでの道のりは、決して順調と言えるものではありませんでした。

やんばるの森に残された米軍廃棄物

やんばるの森の中に広大な敷地を有している北部訓練場。面積はおよそ7500ヘクタールと県内で最大のアメリカ軍基地でしたが2016年12月、そのうちのおよそ4000ヘクタールが返還されました。

国は当初、この北部訓練場返還跡地を含まない形で世界自然遺産への推薦を行っていましたが、推薦地が飛び地になっていて連続性がないなどの理由から、2018年、ユネスコの諮問機関、国際自然保護連合IUCNが「登録延期」を勧告。

その後、国は返還跡地を推薦地へ組み入れ飛び地の課題を解消した形でもう一度申請を行った結果、IUCNは今年5月、「登録は妥当」とする判断をしました。

世界自然遺産への登録確実というニュースに、多くの県民が喜びに湧いた一方で、やんばるの森には全く解決されていない問題がありました。

やんばるの森でフィールドワークを続けている昆虫研究家の宮城秋乃さん。

やんばるの森に残された米軍廃棄物

昆虫研究家 宮城秋乃さん「もし米軍基地がなければ、もちろん米軍廃棄物はないわけですけど、私はずっと昆虫の調査をやってたはずなんですよ平和に。自分が守ろうとしてる(虫たち)が米軍の存在によって、脅威にさらされて。となるとこれを守る活動をするしかないじゃないですか。自分が楽しいことだけはやってられないので」

2007年、訪れた病院で開催されていた昆虫の展示会をキッカケに研究者の道へと入ったという宮城さん。

昆虫研究家 宮城秋乃さん「沖縄の医療関係者でつくる昆虫同好会のグループの展示会があったんですよ。その展示会が標本を飾ったり、写真を飾ったりいろんなものを展示していて、それで私の生きる道は、これだその瞬間に思って」

その後、昆虫採集や標本を作る中で気づいたのは、生きているままの生き物たちが好きということでした。

昆虫研究家 宮城秋乃さん「もうとにかく生きている生物のこの虫の人生の中にあることを調べる。なので、私は捕まえたりしないでフィールドで、手を加えず自然な状態を見るのが好きなんですよ。そうしたら、結構早いうちにすぐいろんな新知見を発見できて、比較的早めに学会発表とかできたんですよ。それで、その後、どんどんいろんな研究結果を出せて、もうずっとこの道にいるっていう感じですね」

宮城さんは、やんばるの森が世界自然遺産へ登録されることに大きな違和感を感じていました。それは「守るべき生き物が守られていない」という現状があるからです。

やんばるの森に残された米軍廃棄物

昆虫研究家 宮城秋乃さん「世界遺産にして守ろうというのはわかるんですけど、でもその守るべき動物を守れてない状況があるのに、世界遺産に登録するっていうのはおかしいので、やっぱりちゃんと自然保護が出来る状態で、初めて世界遺産に推薦して、堂々とやるべきじゃないかなと思います」

大量の銃弾や内容物の分からないドラム缶、野戦食の袋や鉄クズ。アメリカ軍が残した廃棄物の数々がそこにありました。

昆虫研究家 宮城秋乃さん「ちょっと先から左側を見ながら、歩いてほしいんですけど。ここがもう崩壊してるんですよ」

次に案内されたその場所には、土のうが積まれ、腐ったワイヤーが顔を出していました。

昆虫研究家 宮城秋乃さん「上にゴムシートが貼られてて、崩壊した奥にも土のうが積まれてるのが見えますね。結局これはワイヤーも腐ってるので、錆びてるのでそのうち、どんどん劣化して、崩壊していくはずです。日米地位協定で原状回復の義務が米軍にはないので、あとは、どうなってもいいということですよね」

やんばるの森に残された米軍廃棄物

日米地位協定の第4条では、、アメリカは返還地を現状回復する義務はなく、また、日本はアメリカに対して現状回復の費用を求めないことになっています。使用規制もない状態で、アメリカ軍が半世紀以上使い続け、返還されたのがここやんばるの森の土地です。2016年の返還後、防衛省は税金を使い1年をかけて米軍廃棄物の撤去を実施したはずでした。しかし、今なおアメリカ軍の残した廃棄物が次々と出てくるのが実情です。

町記者「このように未使用の空砲が8発見つかりました」

これまでに宮城さんが発見したものは、空砲だけではありません。なんと、実弾まで捨てられていたというのです。

昆虫研究家 宮城秋乃さん「実弾演習が行われていないはずの北部訓練場で、実弾が見つかったということが問題です」

これまでに発見した800発以上の空砲や、照明弾など、数多くの廃棄物がそこにありました。

やんばるに生きる多様な生き物を守るために生き物と、そして自然と関わっている者の責任としてこの問題を解決しないといけないと宮城さんは言います。

やんばるの森に残された米軍廃棄物

昆虫研究家 宮城秋乃さん「もし米軍廃棄物の問題を明らかにすることが昆虫を守ることにつながるのであれば、それでいいんです。とにかく自然が保護出来る状態にもっていくのがベストだと思います。まずは、世界遺産の正式審査がもう少しであるので、それに向けて米軍廃棄物の問題を無視させないこと。この問題は、解決しないといけない。だから、これは生物、自然に関わっている私の責任ですね」

やんばるの森では今もなお一体どれほどの量の廃棄物が危険なままに放置され、森に住む生き物たちに影響を与えているのか全く分かっていません。

果たしてこの問題から目を背けて、見ないふりをしたまま、「世界自然遺産に登録された」と手放しで喜んでいいのでしょうか。

リュウキュウの自然となどで、やんばるの森に生息する昆虫や動物などを紹介し、今回の世界自然遺産への登録は本当にうれしいことなのですが、ここでも、基地問題が大きく影響しています。

世界に誇る「やんばるの森」をアピールするのであればアメリカ軍がどのくらい規模で廃棄物を残したのかそれをどのくらいの時間かけ原状回復できるのか。国に明確な把握と説明が求められています。