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数え歳で97歳の長寿を祝う伝統行事「カジマヤー」は365日を1年とする「太陽暦」の97年が354日を1年とする「太陰暦」の100年に相当することもあって旧暦の「9月7日」に各地で盛大に行われます。

人はこの年になると”子どもに戻る”と言われ、おもちゃの「風車」を持ってきらびやかに飾りつけたオープンカーに乗り込み地域をパレードします。

『天国のおばあちゃんを祝福したい』2年前に他界し、生きていたら今年祝うはずだった祖母に思いを届けようと”亡くなった人のために紙や竹で作った装飾品を焚き上げる”という台湾の風習を取り入れた独創的なカジマヤーが行われました。

胡宮ゆきなさん「おばあちゃん…(マッチで紙に火をつけて投げ入れる)」

勢いよく燃え盛る真っ赤な炎がバチバチと大きな音を立てて空に向かって延びていきます。紙と竹で作った装飾品が天国に届けられました。沖縄の「カジマヤー」と台湾の「お焚き上げ」で亡くなった祖母を祝福する2年越しの一大プロジェクトをやり遂げた瞬間です。

祖母のカジマヤーを企画した台湾在住の美術家・胡宮ゆきなさん「カジマヤーの主役である祖母は2年前に亡くなってしまったんですけど」「お葬式やお骨拾いなども全部リモートで参加となり、私のなかでは祖母が亡くなっているっていう実感がすごく薄くて…」「祖母が準備していて楽しみにしていたカジマヤーをぜひ実現したいと思って…」

天国にいる祖母に届けるカジマヤーは美術家として台湾で活動を続けている胡宮ゆきなさんが企画しました。

天国の祖母に届ける「カジマヤー」 沖縄と台湾の風習で祝福

台湾には亡くなった人とコミュニケーションを取る「紙紮(しさつ)」という風習があって、思い出の品やゆかりの品を紙や竹で作って燃やすことであの世に送り届けられると考えられています。

1カ月前に沖縄に戻ってきたゆきなさんは家族や親戚、友人と装飾品の作成を進めてきました。

祖母のカジマヤーを企画した台湾在住の美術家・胡宮ゆきなさん「(祖母は)多趣味で明るくて、みんなの中心にいるような、すごく、家族の軸となる存在だった」

ゆきなさん祖母・外間キクさんは、1927年11月29日生まれで、古里は読谷村座喜味です。生きていれば今年数えで97歳を迎え、カジマヤーでお祝いするはずだったのに、2年前、突然、亡くなってしまいました。

コロナ禍の真っ只中だったためゆきなさんは台湾から駆け付けることができませんでした。祖母の最期に立ち会えなかった悔しさを抱えていました。そこで、台湾の風習にならって天国のキクさんに「カジマヤー」を届けることを考え付いたのです。歌と踊りが大好きだったキクさんのために金色に輝くマイクを用意しました。シックな黒を基調とした楽器はキクさんが60代のころに始めて30年以上続けていた大正琴です。

地元・浦添に伝わるアギバーリーに乗せて運びます。カジマヤーに欠かせないオープンカーはアメリカ世を生き抜いたキクさんが乗ってみたいと思ってもらえるように左ハンドル仕様にして赤紫の輝きで高級感を演出しました。タイヤにはキクさんの大好物「ピザ」があしらわれています。

祖母のカジマヤーを企画した台湾在住の美術家・胡宮ゆきなさん「カジマヤーをあの世でやってほしいっていう気持ちでたくさん作ったので、みんなでカジマヤー盛り上がってほしいと思います」

「はい、チーズ!」

きらびやかな装飾品をバックに笑顔の記念撮影が行われていました。カジマヤー・パレードの4日前にはキクさんを盛大に祝おうと家族や親族だけでなく親交が深かった友人たちが集まりました。キクさんが大好きだった踊りや大正琴をみんなで披露して思い出話に花を咲かせるにぎやかなひと時を過ごしました。

外間キクさんの娘・胡宮なりえさん「母はカジマヤーを迎えるときはこういうふうな内容で盛り上げてほしいと話していたのでそれを実際に私たちが再現をした」

天国の祖母に届ける「カジマヤー」 沖縄と台湾の風習で祝福

祖母のカジマヤーを企画した台湾在住の美術家・胡宮ゆきなさん「亡くなってしまっている人に対する長寿の祝いだったのでどんな反応なのかな手伝っていただけるかなという気持ちが大きかったがそれでも祖母は人気者だったので」「(祖母が)どういう人柄だったか話ができたり知らなかった話もできたので良い時間だった」

祖母のカジマヤーを企画した台湾在住の美術家・胡宮ゆきなさん「燃やすのが惜しいなって、きのうから家族で話していたんですけど、惜しいって思うからこそおばあちゃんも喜んでくれるかなと思って、(燃やすのが)惜しいって思えるものを贈れることは楽しみですね」

カジマヤーのパレードが終わって装飾品が那覇に運ばれてきました。いよいよ、天国のキクさんに届ける「お焚き上げ」です。お焚き上げには台湾の友人も駆け付けるなどおよそ70人が沖縄と台湾の風習にならったカジマヤーの総仕上げを見守りました。火がつけられた紙の装飾品は勢いよく燃えていきます。天国で楽しい時間を過ごせるようにと数々の趣味がキクさんのもとへと届けられました。

祖母のカジマヤーを企画した台湾在住の美術家・胡宮ゆきなさん「安全に無事に届けられたっていうことに安堵しています」「本当にもう一度祖母と出会えたみたいな感じですごく私たち家族にとってもいいカジマヤーになりました」「もうちょっとあれが足りない、もっと食べたいものがあるのにとか(車のシート)足りないよ、もっと大きいトラックを届けなさいって言われそうですけど、喜んでくれるといいなと思います」

最後の最後は装飾品を送り届けた炎の熱気が残るなか集まったみんなでカチャーシーを踊って幕を閉じました。安堵と充実感をにじませた表情を浮かべていたゆきなさんは沖縄と台湾の風習をあわせる一大プロジェクトを通して天国にいるキクさんとの会話を楽しんでいるようでした。