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15年前に沖縄市で2人の米兵が起こしたタクシー強盗事件の補償をめぐる裁判で遅延金を含む賠償を認めなかった二審の判決を不服として遺族が、9月26日に最高裁に上告しました。

2008年1月、沖縄市で当時59歳だったタクシー運転手の男性が乗客の米兵2人に襲われ、料金を踏み倒される事件が起きました。運転手の男性はPTSDに苦しみながら事件から4年後に亡くなりました。

被害を救済する補償が果たされるよう遺族が国を相手に裁判を起こしていて、法律で認められた遅延金を含む損害賠償の支払いを拒むことは違法だと訴えています。

二審の福岡高裁那覇支部は「補償制度は国の努力義務にとどまる」と指摘しました。そのうえで「法律上の責任を負わない」とした一審判決を支持する形で「遅延金は補償の対象外」という国の主張を認めました。遺族は判決を不服として9月26日に上告しました。

遺族の裁判を支える・日高洋一郎弁護士「当然、遅延損害金も文言上は入るはずなのに、どうしてそこを放棄しないと国は合意してくれないのか、で、そして、そういう制度であるということを裁判所が追認したということは、被害救済という観点ではあまり被害者に対してよいものではないというふうに感じています」

被害男性の長男・宇良宗之さんは「被害者の救済になっているとは言えない今の制度のあり方を見直すことにつながるような判断を示してほしい」と最高裁に望みを託しました。

公務外の米兵が起こした事件や事故の補償をめぐって米側が提示した見舞金が裁判で確定した損害賠償額に満たない場合に差額を日本政府が支払うという制度のあり方について司法がどういう判断を示すのか注目されています。

記者解説

事件から15年も経っているのに、いまだに遺族に補償金が支払われないまま最高裁に判断を仰ぐまでになってしまいました。濱元さん、どうしてこのような事態になってしまっているのでしょうか?

濱元記者「問題の根底には公務外のアメリカ兵による犯罪被害を救済するために国が自ら作った「SACO見舞金」という制度があります。」

日米地位協定では公務外のアメリカ兵が起こした事件・事故の賠償金を加害者が支払えない場合は、アメリカ政府が慰謝料を支払う決まりになっています。

アメリカが示した補償額が少なかった時に裁判で確定した損害賠償額との差額を日本政府が肩代わりして穴埋めしようというのが「SACO見舞金」というわけです。

濱元記者「被害者遺族は加害米兵を相手に裁判を起こし、補償を受けられなかった10年分の遅延損害金およそ900万円を含む2600万円の損害賠償を確定する判決を得ました。」「このうち、アメリカ側が支払う意思を示した金額は全体の5%ほどしかないわずか146万円でした。」

では、その差額のおよそ2500万円を国がしはらうんですよね?

濱元記者「いいえ、国は支払いを拒否しているんです。遅延金とアメリカの提示額を除いた1550万円あまりを支払うとしています。」

「2週間前の控訴審判決では、そもそも「国にSACO見舞金を支給する行政上の義務はなく、あくまで差額を埋めるために努力する内容を示したもの」だと指摘したうえで、遅延金を補償の対象外とする国の主張を追認しました。15年も待たされている遺族側を「独自の見解に経って遅延金を上乗せした金額の支給に固執している」と一蹴して訴えを退けました。」

「遺族の弁護を担当している日高洋一郎弁護士は、被害者の立場に立っていない判決だと非難しました。」

15年前の米兵タクシー強盗の補償めぐり最高裁に上告 遺族「制度見直す判断示してほしい」

日高洋一郎弁護士「自ら文言上は遅延損害金を払うという制度を作っているのに、こちらがそれを国から遅延損害金をあきらめろという申し出に対して応じなかったことが非であるというふうに言われているように感じます」「遅延損害金は除くということが合理的に許されるのかということについて、あまり説得的な判決ではなかったと感じています」

濱元記者「裁判所は15年も待ちぼうけになっている遺族側を「独自の見解に立って遅延金を上乗せした金額支給に固執している」と付け加えています。」

「遅延金を政府が支払わないなら、当事者のアメリカ兵に請求しなければ受け取ることができなくなってしまいます。ただ、沖縄にいるのか本国に帰ったのかすらわからないアメリカ兵を探し出すことは不可能で、泣き寝入りしなければならない状況にも陥りかねません。」

「日高先生は、国が被害者の救済という視点から責任を持って制度を運用すべきだと訴えています。」

日高弁護士「国は国家予算を持ってますんで、努力をしたけど遅延損害金を払えませんでしたっていうことは物理的にあり得ないんで、そこをもし除くというんであれば、払えるけど払いません、努力した結果それですと言っているのと同じですけどそれって本当に努力したと言えるんですかという疑問は生じますよね」「国策で基地を置いて、そこから被害が生じたんであれば、国の側が積極的に被害を救済するという仕組み・運用にすべきではないかと僕自身は考えています」

15年前の米兵タクシー強盗の補償めぐり最高裁に上告 遺族「制度見直す判断示してほしい」

濱元記者「遺族側はきょう上告していて、今後最高裁判所の判断が出るまで、さらに半年から1年以上の時間がかかると見られます。」

アメリカ軍基地がある限り同じような問題が誰でも起こりえます。1日も早い救済とはどうあるべきなのか、いまあり方で十分と言えるのか、一人ひとりが自分事として考える必要があると思います。