家庭の経済的な事情で塾に行けない子どもたちを支援する無料塾があります。県や市町村も本格的に支援に乗り出し、公的な「無料塾」は、県内各地に広がっています。

那覇市内のとあるビルの一角。学校帰りの小中学生が集まる「塾」があります。生活保護世帯や一人親世帯の子どもたちのための無料の学習支援塾です。ここは、那覇市が2011年に開設したもので、軽食の提供も行い、放課後の居場所づくりの役割も担っています。

国語の文章問題を教えていたのは、19歳のゆりあさん。去年、専門学校に進学したのを機に、ここで子どもたちのサポートをしています。実は、無料塾の卒業生だったのです。

負の連鎖断ち切る 学びたいを後押し「無料塾」

ゆりあさん「母子家庭なので、親に塾に行きたいというのが言えなくて、でも中3だから、勉強しないと受験があるなと思って、そのときにポスターに無料っていうのが書いてあって」

中学3年の夏、偶然、学校の掲示板で無料塾の案内を目にしました。クラスメイトが受験勉強を本格化させるなか、母親に進路の相談もできず、孤立感と焦りを感じていた頃でした。

ゆりあさん「精神的に不安定だったんですけど、先生たちがすごい親身になって寄り添ってくれるし、そんなことあったのも忘れるくらい楽しませてくれていたので、自分の中では居場所になっていて、家よりも教室みたいな感じでした」

ゆりあさんにとって、唯一の居場所となっていった無料塾。その運営にあたる「NPO法人エンカレッジ」は、沖縄市で学習塾を経営する坂晴紀さんが、2008年に立ち上げました。

負の連鎖断ち切る 学びたいを後押し「無料塾」

NPO法人エンカレッジ・坂晴紀理事長「夢や希望を持つことはやっぱり大人でもワクワクしますし、子ども達にとっても夢・希望を持つことはすごく大切」

県や市町村の委託を受け、今では離島を含む16市町村で毎年およそ1000人の子どもたちを受け入れています。

無料塾に通う生徒「工業高校に行って、卒業したら仕事に就いて働きたいなっていう(夢が)ある」

生徒の母親「今の生活をバネにして、普通の生活をしてほしいですね」

NPO法人エンカレッジ・坂晴紀理事長「保護世帯の子ですけど、大人になってまた保護世帯にならないようにすることは僕は大切だと思います。負の連鎖とか考えると、やっぱり教育からやっていかないといけない」

負の連鎖断ち切る 学びたいを後押し「無料塾」

県がまとめたアンケート調査では、無料塾に通うようになる前と後の勉強時間を比べたところ、学校以外で1時間以上勉強する子どもは、通塾後は3倍に増え、勉強する習慣が身に付き始めていました。

また、2021年度に、県が支援した中学3年生の99%が高校に合格していて、高校生は84%が大学や専門学校という進学の道を切りひらいています。

エンカレッジではこれまで14年間子どもたちの居場所や学習の環境を整え、支援してきましたが、支援の継続には課題もあるといいます。

NPO法人エンカレッジ・坂晴紀理事長「生活保護とか、準要保護とか、そういった制度につながっている子たちが、こちらの方に来るという状況です。裏を返せば制度につながっていない子たちはこちらのほうにこれない。制度につながってない子たちのほうが、いろいろとこういった事業が必要なんじゃないかなというのはすごく感じています」

無料塾の卒業生・ゆりあさんは、「負の連鎖」を断ち切るためにも、学習支援だけでなく、自分の可能性を知る機会が必要だと感じています。

ゆりあさん「家が荒れていて、あまり本当に経験してこなかった子たちは、将来の夢が見つからないという子もいたりするので。自分が悪いんだというのが、絶対最後に来る子とかいるんで、結局は自分がこうしなければ、こうにはならなかったんだとか、自分が生まれさえしなければ、今こんなにならかったんだとかという子がいるので。エンカレッジに通い始めて、みんなが自分のことを認めてくれるので、すごい自分ここにいていいんだという安心感が得られて、自己肯定感も上がって、自分もできるんだということを思うことができたので、それを下の子たちにも」

負の連鎖断ち切る 学びたいを後押し「無料塾」

ゆりあさんは、今、自分のやりたいことを見つけ、実現にむけて歩みを進めています。将来の夢は「保育士」になること。自分と同じ境遇にある子どもに手を差し伸べられるようになりたいと考えています。

ゆりあさん「やっぱり、ここで経験してきた家庭環境がよくない子だったり、やっぱり、そこまで悪くはないけど、学校でいろいろあって、学校に通えなくなった子どもたちと関わってきたという経験を活かして、保育士になったあとも、いち早く気づいて、解決できるような保育士にはなりたいなと思っています」

NPO法人エンカレッジ・坂晴紀理事長「負の連鎖を無くそうということでやってきたんですけど、やっぱり子どもたちを見てみると、負の連鎖を無くすだけじゃ失礼だなと最近感じているんです。もっと可能性あります。自分の家庭の負の連鎖を断ち切るっていうだけの目標ではダメじゃないかなと」

負の連鎖断ち切る 学びたいを後押し「無料塾」

エンカレッジでは、子どもの可能性を広げる新たな取り組みとして、来月から、「通信制高校」という新たな選択肢を設けることにしました。プログラミングを取り入れた居場所作りや、沖縄の企業と連携してインターシップや就労受け入れなど様々なプロジェクトを企画しています。

NPO法人エンカレッジ・坂晴紀理事長「彼らの可能性をもっともっと伸ばしてあげる、彼らの可能性の天井をどんどん取っ払っていってあげて、もっと出来るんだよということを、提示してあげることが大切なんじゃないかなと思っています」

子どもの可能性を引き出すために、大人や社会がどう関わっていくのか。無料塾の取り組みが県内各地で広がるなか、「自立」につなげる試行錯誤が続けられています。