この夏、沖縄でもっとも読まれている純文学作品があります。先月、第163回芥川賞に選ばれた「首里の馬」です。作者の高山羽根子さんのインタビューとともに、作品の魅力に迫ります。

「問題」「小さな男の子、太った男、そしてイワンは何に?」「皇帝」「正解」

オンライン通話で世界の果ての人たちにクイズを出題する奇妙な仕事。コロナ時代の生活様式を図らずも予見した世界観。芥川賞を受賞した「首里の馬」。

芥川賞「首里の馬」高山羽根子さんに聞く

高山羽根子さん「なにか困難がおきたときの何かヒントじゃないですけど、なるべく沢山残す気持ちで、きっとなにか希望につながればと思って。

数年前から集めてきた、失われた沖縄の記憶。それを作品として執筆している最中に、まさかの事態が。

高山羽根子さん「書き続けていいのか、違う部分に変えたほうがいいのか。」

芥川賞「首里の馬」高山羽根子さんに聞く

那覇市内の書店。品薄が続いていたのが、高山羽根子さんの「首里の馬」。ジュンク堂書店那覇店によると、発売から2週間で、過去の芥川賞作品のおよそ10倍売れています。県内では、又吉直樹さんの「火花」以来のヒットだとか!

富山出身、東京在住の作家・高山羽根子さん。3回目の候補での芥川賞受賞となりました。物語は、浦添市港川の外人住宅街からはじまります。

「首里の馬」本文引用:港川と呼ばれている一帯、かつての外人住宅――といったって、それができた当時ここは、外国だったわけだから、厳密にはその呼称はまちがっている気がするけれども――を最近になってリフォームしたモダンな建築物が、この区画だけ集中してたくさん残っている。

この一角にある古びた郷土資料館で、資料の整理を手伝っているのが、主人公の未名子です。未名子は、旭橋駅近くの雑居ビルで、奇妙な仕事をすることになります。

「首里の馬」本文引用:未名子のここでの仕事は、定められた時間、遠方にいる登録された解答者にクイズを読み、答えさせることだった。

一体、何のためかはわからない仕事。さらに、ある台風の夜、幻の宮古馬が迷い込んできて、事態は急展開。散りばめられた謎の要素が、様々につながっていく様子が、実に鮮やかです。

高山羽根子さん「いろんなものがつなげられるように、たくさんのものを埋めておいたという気持ちはあるんですけど、そのありとあらゆる場所に、たとえとして埋まっている情報を、いくらでも掘り起こせるように。」

高山さんは、今回、はじめて、実際に存在する場所を描くことにこだわったといいます。

高山羽根子さん「なるべくたくさんの情報を皆さんが記録したいっていう気持ちだったりとか、その映像だったり、文章だったり残したいっていう気持ちがすごくあるのを私は行くたびに感じるんです。前向きなというか、もちろん起きた出来事は悲しい出来事なんですけど、たくさんあるんですけど、なんですけどすごく何か、いい場所だな。」

沖縄の失われた歴史に対する人々の思い。高山さんは、執筆中に強く実感することになるのです。

10か月前に起きた首里城火災。高山羽根子さんは、首里の馬を執筆している最中でした。

芥川賞「首里の馬」高山羽根子さんに聞く

高山羽根子さん「書き続けていいのか、違う部分に変えたほうがいいのかじゃないですけど、いろんなことを考えたんですが、やっぱり私がそのとき書いた時には、確実にその首里城があって、もともとその首里城の新しいというか、昔からあったお城というよりは、あの、昔の資料をもとに建っていた、その情報の蓄積みたいなものであることを、大事にして、なるべく変えないように。」

高山さんは、火災前の首里の記憶を、本に残すことに決めました。

「首里の馬」本文引用:首里周辺の建物の多くは、戦後になってから昔風に新しく、作られたものばかりだ。こんなだった、あんなだった、という焼け残った細切れな記憶に、生き残った人々のおぼろげな記憶を混ぜ込んで、再現された小ぎれいな城と建物群は、いま、それでもこの土地の象徴としてきっぱりと存在している。

そして、誰かが残した情報が、実は、この小説「首里の馬」の誕生にもつながっているんです!高山さんが沖縄旅行中に、偶然目にした案内板。そこから、かつて盛んにおこなわれていた琉球競馬や、名馬と言われた宮古馬のことを知るのです。

芥川賞「首里の馬」高山羽根子さんに聞く

高山羽根子さん「私が、たまたま旅行で沖縄に行って、それでそのヒコーキ(琉球競馬の名馬)を知り得るっていうのも、また、突発的なことだと思うんです。研究して聞き取りとかをしている人がいなければ、その突発的な出会いは、なかったはずなんです。やっぱり困難が起きたときの、何かの縁に絶対になるはずなんです。」

小説「首里の馬」の後半、主人公の未名子は、小さなSDカードにこの島の記憶を残そうと動き出します。

「首里の馬」本文引用:役に立つかどうかはなんて今はわからない。でもなにか突発的な、爆弾や大嵐、大きくて悲しいできごとによって、この景色がまったく変わってしまって、みんなが元通りにしたくても元の状態がまったくわからなくなったときに、この情報がみんなの指針になるかもしれない。まったくすべてがなくったしまったとき、この資料がだれかの困難を救うかもしれないんだと、未名子は思った。

芥川賞「首里の馬」高山羽根子さんに聞く