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「性同一性障害:GID」という言葉をご存知でしょうか。自分自身の体と心の性が一致していない状態をいうのですが、それに悩み、自分の本当の性を求める人たちに今、立ちはだかる「壁」がありました。

那覇市松山にある「Mixバー・ちゃんぷる~」。夜な夜な、様々な人が訪れ、盃を交わします。この店を切り盛りする「紀斗」さんは「性同一性障害(Gender Identity Disorder:GID)」。男性の心を持ちながら、体は女性として生まれました。

Qプラスリポート 性同一性障害 立ちはだかる「壁」 自分の“本当の性”を求めて

紀斗さん「やっちゃいました!ようやく。30数年間生きてきて、本当に嫌だったので、自分のなかでは生まれ変わったような」

紀斗さんは大きな決断をして、去年12月、県立中部病院の「おきなわジェンダーセンター」で性別適合手術を受けました。女性の象徴である「乳房」を切除したのです。

2018年から性同一性障害(GID)患者に対する性別適合手術には保険が適用されるようになりました。しかし、そこには大きな矛盾があったのです。

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紀斗さん「ホルモン療法をしている人は保険適用外なんです」

GIDの人々の多くは自分の心と体とのギャップに悩み、苦しんでいます。そんな中で比較的、容易に受けることができる医療行為、それが「ホルモン療法」なのですが、現在、最初にホルモン療法を受けてしまうと保険が適用されません。

紀斗さん「(生まれた)体が苦痛だから、本来の自分の身体になるってことで男性ホルモン注射を打ってくださいから始めたけど、ホルモン治療をしたら適用外っていう。これはもう本当に不思議でならない」

浦添市にある山本クリニックには、性の問題で悩む患者が多く訪れます。

山本先生「性同一性障害(GID)という病気のために医学的な治療を受けたい、ホルモン療法や手術を受けたいと希望されている方が去年の暮までに663人」

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山本クリニックを訪れたのは20代が中心で、FTMといって女性から男性への移行を希望する人が多く、その数は県内の女性の500人に1人。MTFという男性から女性への移行を希望する患者は4〜5000人に1人くらいだといいます。

治療は精神的・社会的な支援と医学的な治療、主に身体的な治療が行われますが、この段階で矛盾が生まれたのです。

山本先生「かつてのガイドラインはホルモン療法をやってから次に胸の手術、それから性別適合手術という三段階の流れでやるという形になっていた」

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GID患者への治療の際、保険が適用されるようになったのはわずか2年前のこと。それより以前は全てが本人が希望して行う自由診療でした。ガイドラインでは、本来の性に戻りたいと希望する人にはホルモン療法を優先させていたのですが、2018年から条件が変更されたことで、性別適合手術には保険が適用されるようになったものの、それ以前にホルモン療法を受けていた人には保険が適用されません。

知念ももこさん「自分が心と体の不一致だから、変えれば自分らしく生きていける。性別を変えてからは、ほぼ自分らしさを出せて生活しやすくなったのは事実」

知念ももこさんはMTF。男性として生まれましたが心は女性。20歳からホルモン療法を始め、2009年にタイで体の女性化の手術を受け、戸籍も女性へと変更しました。

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ももこさん「(ホルモン)注射に関してもカウンセリングにしても、性同一性として診断書をもらわないといけないし。それができてからの手術、体の女性化、男性から女性にするのは順序がすごく大変だった」

レイさん「今までガイドラインに沿って(ホルモン)治療してきた自分たちは除外視されてる感じはあったよね」

ブライアント・レイさんはFTM。生まれは女性・心は男性。5年前に自由診療で乳房切除術を行いました。

レイさん「今から始める人にとってはすごくいい制度だし、自分がその立場だったらありがたいと思うけども」

ももこさん「今の時点では矛盾だらけだから。突っ込みどころが満載」

本来、GID患者の救いとなるはずだったホルモン療法が、思わぬ「壁」になっている現実。

山本先生「人は多様で手術を必要としている方がいらっしゃる。そういう方にはしっかり保険がきいて、この人の人生が送れるようにしてさしあげましょう。そういう多様な選択が出来る社会が作れるのがいいんじゃないか」

現在GID学会などを中心に、この矛盾を解決できるよう働きかけが行われているということです。いっぽう今を生きている当事者たちは。

ももこさん「今まで体に関してやってきたことで苦って思ったことないし、後悔ってない(レイさん:一緒一緒、後悔はない)。変化のうれしさはある」

紀斗さん「わかるー。変化のうれしさ、わかるー。胸取る前、ワクワクでしかない」

ももこさん「ただ自分はこの自分らしさっていうのを出せれば。こういう生き方をしてますとか」

病気、障害ではなく個性。多様で豊かな社会が実現するまで、彼ら彼女らは今日も日々、自分自身と向き合って生きていくのです。

山本先生「今みなさんがホルモン療法を受けて、どれだけ生活の質が上がったのか、満足度が上がったのかという事を調査していて、そのデータを元に厚労省の担当者や保険適用の審議をする会で説得力をもってエビデンス、証拠を固めて認めてもらう、そういう活動をしていますので」

レイさん「個性よね、個性の問題だからね。最終的にはLGBTって公言してなくても当たり前に個性としてマイノリティの方も受け入れられるっていうのが(紀斗さん:理想だね)すごく理想」

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