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三上「今日は首里城を望む龍澤のそばにあります弁財天堂におじゃましています。今日は首里城を舞台にした、破天荒な歴史小説をお書きになって、今、注目されています池上永一さんです。よろしくお願いいたします」

池上さん「初めまして。池上永一です」

三上「今回は歴史小説の『テンペスト』というものをお書きになるにあたって、この周り、首里城はずいぶん通われたんじゃないですか?」

池上さん「通ったのは連載が始まる前と、第二部がはじめる時の2回です。初め、僕もこの首里城を見ていると、何か、物語りを感じるんじゃないかと思ってたんですけど、どうしても観光をしてしまい、通り過ぎてしまって、物語のイメージっていうものがそれほど獲得できなかった。もう、建物の位置を確認しようっていうぐらい。書き始めてると、物語の中の首里城のほうがより首里城らしくなって。歴史的事実を借りてる場合もあるんですけどね、あくまでも物語本位なので」

三上「なるほど。でもその登場人物の中から生まれてきた絢爛豪華さだとは思うんですけれども、ページをめくる度に『王朝ってこんなに煌びやかな世界だったのかな〜』っていう感じで、ほんとに面白くて、映像化を誰かしてほしいなという感じがするんですけれども。まずはどんな物語なのか紹介します」

時は琉球王朝末期。天才的な頭脳を持つ少女・真鶴は、国を救うため、男に成り済まして、難関の役人試験を突破。最年少の官僚として、同じ青年官僚・朝薫とともに尚育王の信頼を獲得する。そんな二人に降りかかる男の嫉妬。そして王妃との権力争いに明け暮れる聞得大君は、真鶴の正体に気付いてしまった。清の国がアヘン戦争に破れ、江戸幕府も傾き、嵐が吹き荒れる首里城を舞台に展開する怒濤の人間ドラマ。誰も見たことがない琉球がそこにある…。

三上「この主人公が凄いですね。女だか男だかわからないという、ベルサイユのばらの“オスカル”みたいだなって私思ったんですけど」

池上さん「いやあ、もう…オスカル、いいじゃないですか。オスカル僕も好きですし。オスカルがいたら、アンドレもいるでしょ」

三上「あ、アンドレは、朝薫ですか?」

池上さん「アンドレは朝薫で、雅博のほうはフェルゼンですね〜(笑)」

三上「フェルゼンだったんですか〜。ベルサイユのばらがわからない人は、どうしたらいいかなって話なんですが、でもどうして女性だけど男性というのを描いたんですか?」

池上さん「はじめに琉球王朝という枠組みをとるときに、歴史を再現しているっていう風に思われるのが嫌なんですね。その事実を検証するのは歴史家さんの仕事で、学者さんの仕事なんです。小説家は物語を生み出すことに専念するべきでで。琉球王朝に宦官っていう制度はないんです。これはもうみんな知っていることで、そこにあえて、宦官という、こう虚構性のある人物を、女の子が宦官になるっていう形で入れることによって、この物語は琉球王朝なんだけども、違う次元を表したいっていう…。だから『宦官いなかったじゃないか』っていう風にご指摘される方もいるけども、それは野暮というもので『小説を楽しみましょう!』っていう最初の前提ですよね」

三上「ええ。テンペストを読んでみると『あの久慶門には高良がいるんだな〜』とか、この先が御内原(うーちばる)、いわゆる“大奥”だったんだと思うとですね、いきなり首里城めぐりが楽しくなっちゃったんですけど」

池上さん「京の内があります。京の内に聞得大君がいて、こう神扇をこう揺らしながら『ほっほっほっほっほ』っとか、『ああ、こうやって歩いてたんだろうな〜』とかね。ここは、行政の中枢であって、美と教養の殿堂であって。首里城を人が使っていた建物として認識してもらうには、魅力的な登場人物を配置する必要がやっぱりありますよね」

三上「どの登場人物もみんな個性豊かでね、魅力的なんですよね」

池上さん「キャラ立ちは大事ですよ」

三上「だから、このテンペストを読んで、若いファンも含めて、首里城に押しかけてくるんじゃないかなと思えるんですが、一方で、真面目な先輩方は『こんなのを書いて、君はちゃんと調べたのかね?』とか言われちゃわないかなって心配もしたんですけど」

池上さん「いや、僕そういうクレームに対して、めっぽう強いんで、『どうぞ、お待ちしております』って」

三上「王妃対聞得大君の戦いとか、ほんとに娯楽スペシャルでありながら、でも日本からでもない、清からでもない、沖縄から日本と中国の歴史を見るとか、結構、読者はものすごくいい経験もさせてもらえるんですよね」

池上さん「その〜、主人公が評定所筆者っていう行政マンなんで、今で言う…エリートです。霞ヶ関の事務次官みたいなのが主人公なので、やっぱり、すべての情報が評定所に集まってくるって言う特性で、こう清国の情報、薩摩の情報、列強の情報も入ってくる。琉球王朝が、かなり複合的な多国の認識の中にある。いろんな認識をされると思うんです。清から見た琉球、薩摩から見た琉球、列強から見た琉球。そのせめぎ合いの中に存在しているのが国家で、どんな国もそういう成り立ちだと思うんです。だから、琉球を琉球たらしめてるのは、常に第三者であるっていうのは、今もそうだと思うし、ぜひ、描きたかったところですよ」

三上「そうですね〜。こういう歴史小説ものは続くんですか?次回作などは?」

池上さん「え〜とね、歴史小説は今回初めて書いて、意外と書いて向いていると思ったんですよ」

三上「では、これからも池上ワールド、ほんとうに期待してますので頑張って下さい。池上永一さんでした」