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教科書検定問題で沖縄戦の集団自決が注目を集めていますが、こうした中、ある裁判が開かれています。元日本兵がノーベル賞作家などを相手取って起こした裁判。普段は大阪地裁で開かれていますが、今回は那覇に場所を移して行われました。

多くの支援者に見守られ、裁判所に入るのは金城重明さん。渡嘉敷島の集団自決の生存者として法廷に立ちました。

沖縄戦当時、慶良間諸島に駐留していた日本軍の元隊長と遺族がノーベル賞作家の大江健三郎さんと出版社を相手に起こした裁判。大江さんの沖縄ノートなどで、集団自決を命令した張本人とされ、名誉を傷つけられたとして、出版の差し止めと損害賠償などを求めています。

『部隊はこれから米軍を迎え撃ち長期戦に入る。従って住民は部隊の行動を妨げないために、また食糧を部隊に提供するため、いさぎよく自決せよ』

62年前、アメリカ軍の上陸直後に集団自決で300人余りが犠牲になった渡嘉敷島。16才だった金城さんは追い詰められる中、兄と共に母親と幼い兄弟を手にかけました。『軍民共生共死』、軍隊と民間人は死ぬときも生きるときも一緒だと教えられていたといいます。

金城さん「この集団死は鬼畜米英を恐れて、住民が自らの意思で自発的に死んだなどという風評議論がなされていますけれども、これはとんでもない間違いだということ。軍と共に最期を遂げるという強制が与えられていたわけであります」

きょうの法廷で金城さんは、アメリカ軍が上陸する一週間前に軍から住民に手榴弾が配られていたことなどをあげ、軍の命令なしに集団自決は起こりえなかったと証言しました。

これに対して元隊長側は、金城さんが直接隊長の命令を聞いているわけではないと指摘し、必ずしも集団自決に関わっていたわけではないと反論しました。

徳永弁護士「集団自決がなぜ起こったのか。それが軍の責任があるのかないのかといった議論と、事実が何だったのかという議論がない交ぜのままでいまだに議論されている。事実ではないことは事実でないということをはっきりさせるのが隊長や隊長の遺族たちの名誉回復につながること」

実はこの裁判は元隊長の名誉回復というだけでなく、別の点からも注目されています。今回の教科書検定で、集団自決と日本軍の関わりを表した記述が書き換えられた理由に、文科省はこの裁判の存在をあげているのです。

岩波書店・岡本厚編集長「私はそれを知ったときに非常に驚きました。しかもその理由が『沖縄集団自決冤罪訴訟』となっていたんです。一方の主張だけをとり上げて、結果が出ていないのに出す自体おかしいし、冤罪訴訟というのは原告側の支援者しか使わない言葉です」

元日本兵の名誉回復の裁判ですが、これが教科書検定とも密接に関係しているんですね。

島袋記者「元日本兵側の弁護士は裁判を起こした理由の一つに、単なる隊長の名誉回復ではなく、教科書の内容を変えることをあげています。具体的に言うと『沖縄戦の集団自決が隊長の命令で行われた』という記述を変えさせたい、歴史認識を修正したいという意図があったことを認めています」

一つの裁判が教科書を、そして歴史の読み方を変えてしまうことについては議論をよびそうですね。

島袋記者「今後の教科書検定でも、裁判さえ起こせば、裁判が起こっていれば、内容を変えることができるという前例になってしまったわけで、この裁判は単なる名誉毀損の裁判としてではなく、こうした背景を考えながら見守る必要があると思います」

裁判の争点は?

島袋記者「きょうの裁判では原告、被告で日本軍の責任と隊長の責任という部分で話がかみ合わなかったように感じました。隊長の命令や責任と、日本軍の命令や責任を裁判所がどうとらえるかが注目されるところです」

普段は大阪で開かれている裁判が今回は沖縄で開かれたわけですが、その意義は。

島袋記者「証人が高齢であることなどを配慮してこのような形になったのですが、大江・岩波側の弁護士は、裁判官が沖縄にわざわざ足を運び、証言を聞いてくれたことに大きな意義があると評価しています」

11月には大江健三郎さんも法廷に立ちます。年度内には判決が出る予定です。