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今月、辺野古新基地建設を押し進める姿勢を鮮明にしている菅新政権が誕生しました。しかし、工事が進むにつれ膨れ上がる莫大な費用や軟弱地盤など、数々の問題もあらわになっています。果たして工事は、国のいうようにできるのでしょうか?

8日に公開が始まった「設計変更の申請書」。県庁や名護市役所など県内8カ所で見ることができます。その分厚いファイルに収められた資料は膨大で、2200ページにも及びます。国が進めようとしている工事には、技術者や専門家から批判が相次いでいます。

辺野古新基地 識者が見た「無謀な工事の姿」

土木技師・北上田毅さん「そこのけ、そこのけ、辺野古が通るという感じで…特殊な作業船をね、長期間辺野古に集中させることが可能なのでしょうか?」

設計変更の最も大きな変更点が「地盤改良」です。国が設計変更を出したのは、工事を始めた後にマヨネーズ状とも呼ばれる「軟弱地盤」の存在が、大浦湾側に広がっていることが判明したためです。

軟らかい地盤を固めなければ、埋め立てを進めることができない状況にまで陥っていました。そこで国は、巨大な作業船を使って砂の杭を海底に打ち込んで、軟弱地盤を補強しようとしているわけです。

ただ、設計変更書のなかには、地盤改良工事について砂杭の大きさや何本打ち込むのかなど、具体的な記述がありません。

新潟大学・立石雅昭名誉教授(地質学)「まず最初に非常に大きな違和感を覚えたのは、一体どのような工事を行い、地盤を改良するのかということが具体的にはこの申請書からは読み取れない。」

さらにもう一つ、「土砂の調達先」にも変更がありました。

沖縄大学・桜井国俊名誉教授(環境学)「県内全域から埋め立て土砂が取られようとしています。一番取られるのが南部地区ですよね。」

これまで国は、県内における土砂の調達先を、「本部や国頭地区」としていました。しかし、変更後は糸満市や八重瀬町といった南部地区をはじめ、宮古、石垣、南大東といった離島も加わり、「県内全域」で土砂を入手しようとしているのです。

設計変更を認めさせてはいけない。国の強硬姿勢に待ったをかけるため、動き出した人たちがいます。

辺野古新基地 識者が見た「無謀な工事の姿」

八重瀬の勉強会・町民の発言「今度は私たちの足元、ここの土を使ってやるというのは絶対許せない。辺野古の埋め立てに南部の土は使わせたくない。」

「島ぐるみ八重瀬の会」は設計変更の問題点を指摘し、埋め立てに反対する県を後押しする意見書を出そうと呼びかけています。

国は、南部地区、八重瀬と糸満から3160万立法メートルの土砂が調達可能だと試算しています。これは、埋め立てに必要な土砂の量の「1.5倍」にもあたる計算です。

平和祈念公園の近くには、八重瀬と糸満にまたがって採石場や鉱山が多数、点在していました。埋め立てに使う土砂を県内だけでまかなおうとしているのではないか?地元の住民たちが怒りを募らせていました。

八重瀬町民「無理やりね、権力を押し付けて、勝手にやっていくっていうのはね、本当に怒りを覚えましたね。」

八重瀬町民「私たちの先祖がたくさん亡くなって、そこ(南部地区)から軍事基地を造るための土砂を取るっていうこと自体が、人道的にも絶対に許してはいけないと思いますね」

八重瀬の会では先週、集まった70人分の意見書を託しました。

意見書の読み上げ「県民とともに県民の宝の海を守るリーダーとして、政府の無法に対決してくださることを強く希望します。」

県に寄せられた意見は、知事が設計変更を認めるかどうかの判断材料になります。県には2500件を超える意見が寄せられていて、内容の公開が終わる来週28日まで受け付けています。

島ぐるみ八重瀬の会・沖本裕司さん「(設計変更は)埋め立て工事が破綻していることを示しているんですよね。冷静に考えてね、もう引き返すときじゃないかと、工事をやめて白紙撤回する、それが一番懸命な道だと思いますね。沖縄にはこれ以上新しい基地はいらないと、戦後75年間、どれだけ米軍基地に苦しんできたのか、もういらない。」

さらに、別の場所でも警戒が強まっていました。

町記者「うるま市の宮城島です。積み重ねられた大量の土砂、この土砂が辺野古新基地建設の埋め立てに使われる可能性が出てきました。」

設計変更で土砂の調達先の1つとして加えられた「宮城島」。国はここから30万立方メートルの土砂を採取できると見込んでいます。

辺野古新基地 識者が見た「無謀な工事の姿」

うるま市島ぐるみ会議・宮城英和さん「ここに来て、ちょっと見たんですよ。8月7日ですけど、その時にはねぇ、このくらいだったんじゃないかな。結構広がっていますよ、ひと月の間に。」

うるま市議会・伊盛サチ子議員「まさかここがこうなるとは思いませんでしたよ」

すぐにでも辺野古に土砂が運び出されるかもしれない。そんな焦りと不安が地域のなかで強まっているといいます。

うるま市島ぐるみ会議・宮城英和さん「県民の意思と反するようなね、ことに加担することになるので、機運を盛り上げて、土砂を運ばせない、赤土を出さない、そういうような運動をね。やっていきたいと思っています。」

「前代未聞の難工事」とも言われる辺野古の「地盤改良工事」。国は埋め立て予定海域の大浦湾に広がっている軟弱地盤、66haの範囲を固めることにしていて、およそ3年半かけて、砂の杭など7万1000本を打ち込む計画です。

石橋記者「うわぁ、大きいですね。海底に砂の杭を打ち込む作業船が3隻並んでいます。高さもかなりあります。ただ、辺野古にはこれよりもさらに大きい船がやってくるということなんです。」

海の底で行われる地盤改良工事、一体どんなことが行われようとしているのでしょうか。地盤工学の専門家に再現してもらいました。

日本大学・理工学部・鎌尾彰司准教授(地盤工学)「サンドコンパクションは砂を圧入したり、振動を与えたりしながらまわりの地盤を押し広げてそこを密にして、強度を出す方法になっております。」

辺野古の軟弱地盤を固める工法の1つ、「サンドコンパクションパイル工法」。海底に沈めた長い筒に砂を投入しながら締め固めていって、砂の杭を造っていくというものです。

今回の実験では、透明なゼリーを軟弱地盤に見立てて再現してもらいました。

日本大学・理工学部・鎌尾彰司准教授(地盤工学)「この黒い部分が砂、まわりの地盤が、柔らかい地盤が、この砂を出すことで締め固まるというのがサンドコンパクションです。」

石橋記者「固い砂を押し込んでいって、軟弱地盤を押し出す、固い土で入れ替えるっていうのが、砂杭を打ち込むっていう理解でいいですか?」

鎌尾准教授「基本的にはそれでよろしいんですが、砂っていうのはご承知の通りサラサラしていますので、硬くするために振動を与えたり衝撃を与えたりして、地盤の中でそういう作業をして、結果的にこの砂杭を硬くする、で、まわりの土も固くなるというようなことになります。」

地盤改良工事としては一般的な「サンドコンパクションパイル工法」ですが、大浦湾に広がる軟弱地盤は世界でも工事の実績がない「水深90m」まで達しています。それが難工事だと言われる所以で、国内には水深70mより深い場所に対応できる作業船がありません。

辺野古新基地 識者が見た「無謀な工事の姿」

日本大学・理工学部・鎌尾彰司准教授(地盤工学)「最大でも70mしか届かない、(最深の)20m部分が地盤改良ができない状態になってしまうというのがですね、一番この工事の難しさ。じわじわっていう沈下が何年、何十年とかかってゆっくり沈下が進んでいくっていうようなのが、改良できない部分の大きな心配事。」

地盤沈下で凸凹が生じればその都度、補修をしなければならなくなり、「辺野古は基地建設には向いていない」というのが専門家の意見です。

計画の見直しに伴い、当初の計画と比べて工費は3倍、工期は2倍になっていて、基地の完成は2030年代以降にずれ込んでいます。

長引く工期に、膨大な建設費、そして、実績のない前代未聞の難工事、設計変更の膨大な資料の中から浮かび上がった辺野古に横たわる様々な問題。玉城知事は設計変更を認めない構えを見せていて、辺野古をめぐる県と国との対立は深まる一方です。