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動かぬ基地です。県内に14のアメリカ軍施設を抱える神奈川県の横須賀市では、7年前のある日の朝、出勤しようと道を歩いていた50代の女性が、何の落ち度もなく、アメリカ兵に殴り殺されました。遺族となってしまった夫は、暴力を繰り返す軍隊を一般市民の生活の中においている国の責任を問う裁判をしています。

しかし、アメリカ軍からの事件に関する情報提供はあまりに少なく、原告に不利な状態が続いています。それを可能としているのは、日米地位協定の裏に隠された、驚くべき「密約」でした。

山崎さん「えーと、ここです、現場は。ここは血痕がひどかったもので」「道を聞くふりをしたんです。ベース、ベースと聞いたから、ベースは分かりますから、女房も」「ベースって指した途端にいきなり殴られた、と」

その事件が起きたのは7年前、神奈川県横須賀市の住宅街でした。山崎さんの妻・好重さんは、朝早く、仕事に行こうと家を出た直後、声をかけてきた見ず知らずのアメリカ兵から激しい暴行を受け、命を奪われました。

事件の犯人は、当時、横須賀海軍基地にいたアメリカ兵、ウィリアム・リース(21)。犯行直前まで、基地の外で、夜通し酒を飲み、金を使い果たしていたリースは、たまたま通りかかった好重さんを襲ったのです。

山崎さん「7年過ぎて・・・いつまでも笑っているから、写真は」「本当に痛かったと思うよ、怖かったんじゃいかと思うね、いつも。ほんとうにそう思う」

当時、路線バスの運転手だった山崎さんと、清掃員だった好重さんはいつも一緒でした。「妻はなぜ殺されたのか」山崎さんは事件の責任をアメリカ軍と日本政府に求めて、7年前、裁判を起こしました。

山崎さん「だって国の政策として基地を置いてさ、そこにアメリカという軍隊を置いてさ、何の規制もなく、置いておいて、人殺しておいて、関係ないよって、米兵個人の問題だよって、それは地位協定とかさ、安保条約の問題ですよ」

日米地位協定では公務外のアメリカ兵が起こした事件の民事裁判ではアメリカ兵個人が支払い責任を負うとされています。

中村弁護士「兵士が事件を起こしたら米軍の責任は必ず問われるべきなんじゃないか」「飲酒について規制をしなかったということと、深夜外出させたということの規制をとっていなかったということについて責任追及しています」

ところが去年、東京高裁が下した判決は、驚くべきものでした。アメリカ軍が日本にいる目的は、軍の任務を遂行させるためで、兵士を監督する権限は、その使命を果たすためのもの。職務とは関係のない日常生活では、日本人の生命に危害が及ぶ事態を防止する義務はないというのです。

山崎さん「多くの国民がね、アメリカが日本人を守ってくれていると」「これがね、高裁の判決で、これが否定されたんですよ」

山崎さんはすぐに最高裁に上告しました。しかし・・・ 中村弁護士「裁判にあたって、アメリカ軍から証拠を取るにあたって、なかなか情報が出てこないと。主張立証が難しくなっているのを肌で感じています」

いくら質問状を送っても「記録がない」と繰り返すアメリカ軍。実はこれを可能にしているのは、日米間で交わされた、知られざる取り決めなのです。

最高裁判所が作成したこの資料。そこに書かれていたのは、61年前に日米代表者が開いた協議の生々しいやりとり。そこでは、こんな重要な合意がされていたのです。

日本質問「日本の民事裁判所が証拠のための情報を求めた場合、合衆国の当局は応ずるか」アメリカ回答「その情報を公にすることが合衆国の利益を害すると認められる場合にはできない」この資料は、ジャーナリストの吉田敏浩さんが見つけました。

吉田敏浩さん「アメリカ側に不利な情報は出さなくてもいいということが書かれている「密約」だと思います」

外務省の地位協定に関するページみてみると、その「密約」が取り交わされた協議も載っています。しかし、その文面からは、あの重要な合意が、すっぽりと抜け落ちているのです。

吉田敏浩さんQ情報公開請求に対しては(外務省は)どのような回答をしていますか? 吉田敏浩さん「公開すると米国との信頼を損ねるから公開できないと言い続けているんです」

山崎さん「証拠を出さなくていいという密約まで出てたと。こういうことは裁判起こしても勝てないですよ。このような司法がね、証拠もなんかアメリカが出さなくてもいいと、司法が認めている密約がある以上ね、裁判は勝てません」

好重さんが殺された2年後、横須賀市内でアメリカ兵がタクシー運転手を殺害する事件が発生。事件が起こるたびにアメリカ軍は飲酒や外出を規制しますが、いつの間にか、緩和されています。

山崎さんはいま、沖縄の人たちに伝えたいことがあるといいます。

山崎さん「沖縄があれだけ事件がおきても裁判とか色んなこと出来ない。これはやっぱりね、本州にいる人と一緒にならないといけないと私は思います」「沖縄の人たちにね、絶対、泣き寝入りしないで戦っている人も、本州にはいるんだということをね、分かってほしい」

愛する家族をある日突然奪われたというだけでも絶望的な状態なのに、さらに裁判を起こしても、日米間が国家レベルで行っていた取り決めによって、被害者が法廷で訴えたいことの裏付けすら難しい状態が生み出されてきたんですね。

こんな状況の中でも「この裁判は賠償金のためではない。おかしいことはおかしいと国に言わなくてはいけないんだ」と闘っている人がいることは、この地位協定が、沖縄だけの問題ではなく、全国民にかかわる、決して放置できない問題だと言えるでしょう。