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こちらに一枚の書類があります。これは今年2月、金武町の専門学校の寮などでアメリカ兵が起こした器物損壊事件で、アメリカ軍が被害者の学生たちに提示したとされる「示談書」です。被害者の学生たちは、近くの交番などに呼び出され、修理代を受け取る代わりに、この「示談書」にサインするよう求められていました。今日は、これまで公にされて来なかった示談の実態と問題についてリポ―トします。

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加害者米兵「No words that I can say to express how sorry actually I am.」

淡々と謝罪を述べるこの男性。専門学校の駐車場で、酒に酔って乗用車を壊したとして検挙されたアメリカ兵です。この日、初めて学校側に謝罪に訪れました。

事件が起きたのは今年2月21日。金武町の琉球リハビリテーション学院の学校寮の駐車場などで車両十数台が壊されたのです。

学生「両サイドミラーたたんでたんですけど、これが二つとも蹴られてひっくりかえっていた」「ワイパーたってて、ここがガンって曲げられている状態。パニックになって、誰に電話して良いかわからなくて。もう大泣きでした」

3カ月後、キャンプ・ハンセン所属の上等兵が器物損壊の疑いで書類送検されました。しかし、事件は思わぬ方向に進んでいきます。アメリカ軍の法務担当者を名乗る男性から被害を受けた学生たちに、呼び出しの電話がかかってきたのです。用件は壊された車の修理代を支払いたい、つまり被害弁済がしたいというもの。しかし、会ってみると目的は別にありました。

学生「お金を払うから示談書をかけと」「(お金を)受け取るなら示談書書くのが当然な言い方をされたんで、自分はそれはおかしいんじゃないかと思った」

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アメリカ軍の担当者は壊した車の修理代を払う代わりに、示談書にサインするよう迫ったのです。しかも学生たちが呼び出された場所は交番。しかしそこに警察官が立ち会っていたわけではなく、一対一の密室のやりとりとなりました。学生たちは状況が今一つ理解できず、圧力や恐怖心さえ感じたといいます。

学生「示談書書きませんと言ってから一変したのが大きい。(Q:一変したというのは?)『じゃあもう帰って』って。『早く書いて帰って』みたいな」

学生の中には、アメリカ軍が用意してきた書類は英語で書かれていて、内容をほとんど理解できなかったという人もいました。

学生「示談書は全部英語。全く何を書いてあるかわからない状態です。まったく説明はなかった」

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アメリカ軍に問い合わせたところ、メールで次のような回答が返ってきました。

『示談書と領収書は全てに日本語と英語の両方で提示した』

食い違う両者の主張。しかし学生たちが示談書の内容を再確認することはできませんでした。なぜなら示談書もアメリカ軍が支払った修理代の領収書もその場で回収されてしまったからです。

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こうした中、先月、アメリカ軍法務担当者らが学校を訪れ、釈明しました。

藤原茂学院長「英語で書かれていたものがポンと出されたと。学生はすごく当惑している」

学生たちに代わって怒りの声をあげた学院長。しかし、学生たちと直接交渉を行った法務担当者は示談の公平性を主張しつづけました。

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海兵隊法務部損害賠償課・江田守吉さん「英語だけじゃないです。最初は英語、下には日本語で書かれているんです」

学院長「それは実物を見せてもらうわけにはまいらんものか」

江田さん「ちょっとそれは私の手から離れていますから」

平行線をたどる両者の話し合い。学校側は次のように訴えました。

学院長「説明も何もなくてただお金で済ませようとするその体質が私は嫌なんです」

儀間智理事長「キャンプ・ハンセンがあって、学校があって、いろんな政治的なことがあるので、個人がどうこう言えないこともあるが、実際両方存在している。私は学生を守る義務がある。すべてお金で解決しようというようなことが海兵隊の発想であるならば、断固として存在自体認めることができない」

ここに、米軍が被害者に提示したとされる「示談書」 があります。学校側の強い求めを受け、話し合いの後、アメリカ軍が出したものです。文面は日本語でも説明がされていますが難解で、内容自体にも問題があることがわかりました。

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池宮城紀夫弁護士「初めての、素人の皆さんは意味がわからんでしょう。『完全に満たす最終的解決』としてあるわけだからさ。この文言とこの永久に免責するというのがつながって、大変重要な文言なのよ。今後、何か損害が発生しても請求できないということです」

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つまり、この示談書に一たびサインしてしまうと、この後、何らかの損害が発生しても二度と被害を請求できないということなのです。

これまでアメリカ軍が絡む事件事故を担当してきた弁護士は、こういった示談書のやり取りには別の思惑もあるのではと指摘します。

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池宮城弁護士「起訴すべき事件でも場合によっては、被害者と示談が成立しているので、今回は刑事処分をしないとか、あるいは軽い罰金で済ますとか、そういうことをやるわけです。だから民事の賠償と刑事は密接に絡んでいる」

今回の取材でアメリカ軍の法務担当者は次のような事実も明らかにしました。

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江田さん「(Q:事件が起きた時にはお金で解決?)もちろんそうですよ。損害賠償の場合には。もちろん、うちのは示談書がほしいです。(Q:例えば暴行事件にも示談書ですか?)まぁ、民事の場合には」

広大な基地と隣り合わせで暮らす県民は、アメリカ兵による事件や事故に巻き込まれる可能性も多くあります。今回の問題は、アメリカ軍が示談という形で都合よくトラブルの幕引きをはかってきた実態。そしてその交渉も全く不平等な形で行われていることを浮き彫りにしています。

示談とは本来、加害者と被害者が対等の立場にたって、両者が十分納得したうえで交わされるべきものです。被害者が圧力を感じる示談は決して許されるべきものではありません。

今回の取材では、被害者への謝罪の気持ちよりも、一刻も早く事を片づけてしまいたいというアメリカ軍の姿勢が浮き彫りになりました。アメリカ軍は学校側に対し「今後は新しい示談書を使用する」と話していましたが、いくら書面の内容が変わっても、被害者に向き合う姿勢を根本から見直さなければ、全く意味がありません。