沖縄を巡る、有事や国際関係などを考える「『有事』の果てに」です。今回は、沖縄同様に、外部から「有事の最前線」に位置づけられる台湾の島、金門島の特集をお送りします。中国と目と鼻の先にある島の今を取材しました。
台湾側が統治する金門島。中国大陸のすぐそばにある島で、台湾の中心都市・台北から飛行機でおよそ1時間です。
塚崎記者「中国軍の上陸を防ぐバリケードが残る、金門島の海岸です。あちらには中国側のアモイ市の様子も見て取れます」
第二次大戦の終結直後から、中国と台湾、そして東西陣営の政治的・軍事的に対立が深まる中で、最前線とされた金門島。島には台湾軍の陣地跡が多く残され、当時を物語ります。いまも台湾有事を巡る議論で、「最前線」と目される島の今を追いました。
島の北部に残る、砲台の跡地。中国軍とのかつての砲撃戦を再現した観光アトラクションの一幕です。砲声を響かせるのは、沖縄のアメリカ軍基地から持ち込まれたという、アメリカ製の大砲でした。狭い海峡を挟んで中国軍とにらみ合っていたそこも今は、大陸側を含む多くの観光客が訪れる名所となっています。
一方、島の中心のバスターミナルに残るのは、戦闘の長期化に備えたシェルターです。
ガイド「当時、16歳~55歳の男性、女性は16歳から50歳までが、組織に入らなければいけなかった」
島では、中国軍との戦闘に備えて、民間防衛組織も作られていたといいます。全長およそ2.5キロのうち、一部が公開されているトンネルには、備蓄物資などが残されていました。
見学した地元の生徒「昔の人は不憫に思う」
地元の学校教師「今も台湾と大陸の対立は続いている。生徒には先人たちの体験や過去の歴史を忘れないようにしてもらいたい」
金門島は中国側と「小三通」として、行き来が行われており、大陸から導水パイプも引かれています。住民は目の前にある大国・中国をどう見ているのでしょうか。
住民「台湾と中国は今の状態にありますが、ただ、この状態はもう慣れています」
住民「金門の人たちは『小三通』を利用して、対岸(中国)に観光や買い物に行っています」
住民「かつて戦地から、平和な方法を望みます。双方が攻撃せず、現状維持が望ましい。経済が正常に発展してほしい。相互の経済が戦争が起こることなく、発展してくれれば」
そうした中、近年にわかに注目を集める、中国軍の台湾攻撃の可能性。
高市総理「戦艦を使って、その武力行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうる」
高市総理は、台湾有事での自衛隊の出動を念頭にした発言をし、中国側が強く反発。一方で、シンクタンクの軍事的なシミュレーションでは、台湾周辺を中国側の艦船が取り囲むシナリオが語られています。
糸数与那国町長(当時)「地政学的に与那国の位置関係は、望む・望まないに関係なく、中台間における金門島みたいな位置なんですよ」
このような文脈の議論で、金門島は冷戦時代と同様に「最前線」に位置づけられがちです。
董森堡議員「もし、習近平氏が統一という偉業を成し遂げるとしたら、台湾本島を取ることが主要な目標となるでしょう」
金門県で議員を務める、董森堡議員。台湾と中国の間で、政治的・軍事的緊張が生じる中でも、金門島の位置づけは低下してきたとみています。
董森堡議員「私は金門島は今、緩衝地帯だと思う。中国が(台湾側の)澎湖諸島や馬祖諸島、金門などを攻めるとしたら、戦術的には勝てますが、戦略的には失敗でしょう。(台湾側の)離島を攻撃するのは、日本やアメリカ、欧州が介入する機会ができますし、台湾独立の動きも高まるでしょう」
董議員は、地域の歴史をこう語りました。
董森堡議員「金門島を台湾に近づけることは不可能です。1949年以前は金門と厦門の交流は今よりも頻繁だったと思う。100年前、周囲の多くの人は、東南アジアに行って仕事をしていた。彼らはここから船に乗って、アモイを通って東南アジアに向かった。歴史的文脈でいうと、切っても切れない関係にあるのです」
周辺にある国や地域との位置関係を変えることは、決してできません。ただ、現場の空気や見方に即して台湾有事を巡る議論をとらえなおすことは、できるのではないでしょうか。
