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アメリカ軍再編に振り回されているのは何も沖縄だけではありません。山口県の岩国市で、アメリカ軍の空母艦載機の移転を最大の争点にした市長選が今月行われ、受け入れに前向きな与党候補が当選しました。政府によるアメとムチによって分断される市民を岸本記者が現地で取材しました。

アメリカ海軍の空母に搭載されるFA18スーパーホーネットの艦載機部隊。この部隊の厚木基地からの訓練移転の是非を最大の争点に、今回の岩国市長選は実施されました。

「バンザーイ!」

福田氏「みなさんのおかげで岩国は今から生まれ変わります!」

結果は僅か1700票あまりの差で、艦載機の受け入れに柔軟な姿勢を示す福田氏が、これまで9年間市政を預かってきた井原前市長を破って初当選。

当落が判明したのは沖縄で海兵隊員が暴行事件を起こして逮捕されるわずか3時間前でした。

岩国商工会議所・長野壽会頭「福田さんは強運の政治家だと思う。もし一日早く(沖縄の事件が)起きていたなら、違った結果が出たかもしれない」

住民投票の成果を活かす会・大川清代表「選挙前であろうが選挙後であろうが、決して許されるべき事件じゃない。仮にお金が入るとしても、安心、安全というのはお金では買えない」

岩国基地への艦載機移転の話が初めて公になったのは2005年、アメリカ軍再編の中間報告。井原前市長はその翌年、その是非を問う住民投票を実施し、投票した人のおよそ9割が訓練の受け入れに反対の意思表示をしました。

しかし、再編計画を進めたい政府は、新市庁舎の建設に対する補助金35億円を凍結するなどして岩国市を兵糧攻めに。そのため井原前市長はその職を辞して、選挙で再び市民の判断を仰いだのです。

岸本記者「ここは岩国基地の目の前にある飲食店街の川下地区です。この辺りはちょうど沖縄市の空港通りと同じように、アメリカ兵を相手にした古くからの店が軒を連ねています。この街の人達は今回の選挙結果をどう受け止めているんでしょうか」

「福田さんが勝ったから良かったと思う。もうみんな困ってるもの。今日本人も(店に)入ってこないし」

「前の市長さんはちょっとおかしいわ。人が増えないことにはどうしようもない」

「岩国には広島や他の都市のように大きな商売はない。この艦載機移転のチャンスを活かして、岩国にもっとお金が落ちるようになればいい」

「今の市長さんに賭けてます。この町の人達は全部賭けてると思いますよ」

沖縄での暴行事件を受け、岩国でも兵士の外出禁止令が出されたこの日。人通りがさらに少なくなったこの通りでは、ほぼすべての人が福田新市長の誕生に期待感を示しました。

しかし翌日、駅前で話を聞くとやはり意見は真っ二つに割れていました。

市民「岩国市のレベルというか、誇りが問われたと思うんです。それなのにこういう結果が出て凄く残念です」

市民「やっぱり娘がこれから大きくなって、もし何かあったらというのはありますけど」

市民「何でもNOでは、今の世の中ちょっと通じない」

市民「苦しい財政で、北海道の夕張の二の舞になるのではないかとみんな心配していましたから」

実際、井原市政の時代、岩国市の借金は市町村合併などで財政破綻した夕張市を上回る1000億円に到達。人口数が違うため、単純な比較はできませんが、この数年だけで200社近い岩国の企業が消えたことも事実です。

岩国市商工会議所・長野会頭「井原市長の時代に百数十社、毎年50社くらい会員が減っている。その中に倒産が相当含まれている。その廃業の中にですね。やはり経済が非常に岩国は疲弊していると」

これに対し、住民投票の成果を活かす会の活動を続ける大川さんは選挙の争点が財政問題にすり替えられたと語ります。

大川さん「移転容認の福田候補に票を入れれば、35億円が出るというのは暗に空気が漂っていましたから。僕はそんな風に、本来助け合うべき市民を分断させた国のやり方というのは許すことはできないと思います」

福田新市長「失礼します!」

石破防衛大臣「おめでとうございます。お疲れ様でした。大変でしたね。はらはらしました」

当選後、防衛省へ挨拶に訪れた新市長に対し、石破防衛大臣は「艦載機の訓練受け入れの正式表明」を条件に、新市庁舎への交付金35億円の支給を約束しました。

落選後、初めて艦載機移転に反対する市民の集いに姿を見せた井原前市長は、民主主義の崩壊を危惧していました。

井原前市長「沖縄・岩国・座間と、しっかり地元の声を出しながら国と容認しない中で協議を進めてきた訳ですから、その一角が崩れるということになると、他の地域に与える影響は非常に大きい気がしますから残念です。お金で判断すべき問題ではない」

福田市長はきのう、市議会で行った初めての施政方針演説で艦載機の受け入れを容認すると説明。

岩国市には今後、新市庁舎の建設費とは別に、10年間でおよそ130億円の再編交付金が支給されます。

財政難に苦しむ自治体の足元を政府に見られ、結果的に住民が引き裂かれていく構図は岩国も沖縄も全く同じです。来週火曜日には岩国緊急リポート第2弾!アメリカ兵ための住宅建設問題をお伝えします。