復興のキセキです。幾度もの困難を乗り越えてよみがえってきた首里城。その再建の現場から新たな「復興のシンボル」が生まれようとしています。
心に優しく語りかけるように響く音色。沖縄の人々の暮らしに寄り添い時を越えて受け継がれてきた「三線」です。県民の4人に1人が命を落とした沖縄戦。戦禍を生き延びた人々の心に寄り添ったのも空き缶とパラシュートの紐などから生まれた「カンカラ三線」でした。素朴で温かいその音色は、うちなーんちゅの心を癒し、生きる力を与えました。あれから約80年。「戦後復興の象徴」だった三線が今再び「復興のシンボル」として歩み始めています。
令和の正殿の完成が来年秋に迫る中、新たな試みがスタートしています。それは、復元の過程で出た「端材」を使い、世界にひとつだけの三線「復興三線」を制作するというもの。

三線職人 仲嶺幹さん「その音色で奏でる歌や音楽で少しでも復興の励みになればと思う」
「復興三線」プロジェクトでは木材の削り出しや、棹の漆塗装など作業を分担して実施。職人それぞれの技、思いをのせて「たすき」をつなぐように作り上げていきます。
そのうち仲嶺さんが手がけるのは、「チーガ」と呼ばれる胴の部分に皮を張る作業。「くさび張り」と呼ばれる伝統の技で締め具にくさびを打ち込み、音を確かめながら皮の張り具合を調整していきます。
三線職人 仲嶺幹さん「首里城は何度かやはり戦も含めて火災、人災と何度も復興して立ち上がってきたというのは沖縄の象徴なのかなと。そこに携われるのは県民としてはとても有意義なことだと思っている」
また、仲嶺さんが期待しているのは、この復興三線が記憶と思いを次の世代へつなぐきっかけになることです。
三線職人 仲嶺幹さん「工芸品ってその背景に文化的な役割。当時の人のいろんな考え方などが詰まっているので物がなくなったというより、その向こう側にある昔の人たちが残してきたもの、考え方も同時に燃えてしまったという感じがしていて。建物の箱だけじゃなくてその裏側にある文化そういうものも復興していかないといけない。復興三線を作って、それがニュースになって。実は箱(建物)以外にも復興していかないといけないものがたくさんあると少しでも伝われば」

実は、この三線。制作に携わるのは沖縄の職人だけではありません。次なる舞台は…石川県輪島市です。
去年の元日。能登半島を襲った最大震度7の大地震。そのわずか9カ月後。追い打ちをかけるように豪雨災害が発生。輪島市はかつてない苦境に立たされました。日本を代表する伝統工芸「輪島塗」の産地・輪島では、漆を使った手仕事が長い年月をかけて継承されてきました。
一方、首里城の復元でも欠かせないのが漆の技術。地域は違えど、伝統の技を大切にするという志は同じです。そこで今回、能登・首里城の復興への機運を高めようと三線の制作には輪島の職人も加わることになりました。今なお災害の爪痕が残る輪島市内。そこに「復興三線」のたすきを受け取った男性がいます。蒔絵師の北濱幸作さんです。
蒔絵師 北濱幸作さん「『まきえ』というのはどういう字を書くかっていうと種を蒔く、草冠に時と書くのだが…だからパラパラまいて絵を描いている。蒔絵」
漆器の表面に漆で絵や模様を描き、それが乾かないうちに金や銀の粉をふり蒔く加飾手法のひとつ「蒔絵」今回は、棹の部分に施されます。

蒔絵師 北濱幸作さん「(沖縄の職人の)始末、終わり方というかこれだけ奇麗にやっているのは相当気を使って塗ったんだろうと明らかに分かるし、これほど奇麗に仕上がっているのはびっくりした」
去年1月の地震では、自宅で被災。工房も兼ねていた住み慣れた家が全壊しました。
蒔絵師 北濱幸作さん「あそこに線みたいなものがあるでしょ。あそこまで水がきた」
車庫に荷物を運びこみ、生活を始めた北濱さん。日常を取り戻そうとしていた矢先、今度は豪雨が襲います。水に浸かってしまった道具や材料も多く、心が折れそうになったと言いますが、それでも…。
蒔絵師 北濱幸作さん「あんまり後ろを振り返っていてもいいことがないので、今やれることを一生懸命やっていれば、そのまた先につながっていくんだろう。それが本来の復興の姿だと私は思っている」
自分の仕事を通してより多くの人に「能登」「輪島」に思いを馳せてもらえたらとこのプロジェクトを引き受けました。そんな北濱さんに、沖縄の三線職人らの作業の様子を見てもらいました。
蒔絵師 北濱幸作さん「日本はそれなりに広いが、こういう伝統工芸の中というのは意外ともしかしたら近いものがあるのかも。面白いな」「人生の中で多分いろんなことがあるんでしょうけどね。でもやっぱりそれぞれがみんな力を合わせながら乗り越える、越えていくことが大事なんでしょうね、きっとね」
一丁の三線に二つの土地の祈りを込めて。能登と沖縄。海を越えて制作された復興三線は来月お披露目されます。
デザインはお披露目まで秘密、ということで今回はお見せできなかったが雪や海、輪島の景勝地などをモチーフに蒔絵が施されています。そのお披露目は、来月12日になる予定。首里城公園内で実際に」復興三線」も演奏されます。輪島からも複数職人が沖縄を訪れ、輪島塗の体験コーナーも設けられる。詳しくは首里城公園のHPなどをご覧ください。
