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政府が南西シフトとして進める自衛隊配備や、有事の問題などを考える「沖縄と自衛隊」です。きょうは、今年・2023年の動きを振り返るリポートです。

南西シフトでは、3月に石垣駐屯地が開設され、先島地域でのアメリカ軍との共同訓練も活発に行われた一方で、民間の港や空港を自衛隊が使用した事例が目立ったのも今年の特徴でした。

アメリカ軍との連携や、民間施設の使用を軸に、この1年間の沖縄と自衛隊をまとめました。

中山石垣市長「奄美以南の南西諸島の防衛の形が、石垣島が最後になりましたけれどもこれで形が整った」

今年3月に開設された石垣駐屯地。政府が防衛上の「空白」を強調して進めた、与那国島・石垣島・宮古島での「南西シフト」に伴う陸自配備は、一つの区切りを迎えました。

船越遼太郎記者「10時51分です、日米共同訓練のため、陸上自衛隊のオスプレイが石垣空港に到着しました」

町龍太郎記者「午前7時半です。船から続々と自衛隊の車両が降りてきています」

沖縄と自衛隊(20) 2023年の自衛隊と県民 進む民間使用と日米一体化

3月の「アイアン・フィスト」、10月の「レゾリュートドラゴン」、先月の「自衛隊統合演習」。今年、南西地域で行われた自衛隊やアメリカ軍の訓練では、空港や港のほか、民間地の使用も目立ちました。

第3海兵遠征軍・ビアマン司令官「訓練をスムーズに行う上で、島々の移動への皆様のご理解・ご協力に感謝する」

日米の戦略や民間施設使用は、県民にどのような影響を与えるのか、読み解きます。

野添文彬准教授「これまでいろいろな形で海兵隊はEABOの訓練を行ってきたが、それをさらにもう一段進め、自衛隊とどういう風に第一列島線を使いながら、特に先島・沖縄本島を使いながら展開していくか」「非常に実践的に行われたとみている」

沖縄と自衛隊(20) 2023年の自衛隊と県民 進む民間使用と日米一体化

そう語るのは、アメリカ軍基地を巡る日米関係などを研究する、沖縄国際大学の野添文彬准教授。

野添准教授が着目してきたのは、アメリカ海兵隊の「遠征前方基地作戦・EABO」と呼ばれる作戦です。その作戦に対応する「海兵沿岸連隊」も先月、キャンプ・ハンセンで発足しています。

野添文彬准教授「(EABOは)中国の軍事力増強・あるいは海洋進出に対して、特に中国のミサイル攻撃で、既存の大規模な基地だと攻撃されやすいということで」「離島の島々に展開して、レーダーを作ったり、給油ポイントを作ったり、ミサイルを配備したりして、そこを拠点にしながら中国に対抗するという作戦」「自衛隊統合演習などを見ると、ミサイル攻撃で自衛隊基地・米軍基地が使えなくなった時に、民間の公共インフラを使用することも行われた」「公共インフラもこれからはどんどん、自衛隊や米軍など訓練で使うことを示した訓練だった」

こうしたアメリカ軍や自衛隊の動きが活発化する中で、先島では台湾有事を念頭に、有事の住民避難も議論されています。野添准教授は有事が起きる前に部隊を島に展開するEABOと、住民避難との整合性について、一方的な視点しかないと指摘します。

沖縄と自衛隊(20) 2023年の自衛隊と県民 進む民間使用と日米一体化

野添文彬准教授「有事の前段階、まさに住民が戦争に巻き込まれないように逃げようとしている。まさにそのタイミングで、米軍・海兵隊がEABOを実施するということになる。国民保護のために使われるべき港や空港が、EABOで海兵隊が展開することになりかねない」「有事が起こったとき、住民と米軍・自衛隊などが混ざった状態になったときのことをどうするのかは、考えられていない」「完全に欠けているのはそこに住んでいる住民の立場・視点」「日本が戦場になることが台湾有事では大いに想定されるが、その場合住民がどうなるのかは、もっと考えられる必要がある」

戦争の準備につながると、県民からは反発もある有事の国民保護計画ですが、野添准教授は、正面から向き合う必要性を強調します。

野添文彬准教授「今沖縄で起きている最大の問題は、政府がそこに住んでいる地元の人々の意向を無視して、どんどん軍事力増強を行っていること」「日本政府が国民をどれだけ守っているのかというメッセージとして真剣に考える必要がある」「国民保護のことを突き詰めれば、いかに戦争が非常に悲惨か、無益なものかと逆によくわかる。その論理を組み立てるためにも、国民保護について現実的な対策を考えることは有効」

加えて、野添准教授はこう強調します。

野添文彬准教授「今の日本の安全保障政策は、抑止にあまりにも偏りすぎている」「外交での対話による地域の安定をもっと目指すべき」

沖縄と自衛隊(20) 2023年の自衛隊と県民 進む民間使用と日米一体化

石垣市・山里節子さん「一日も早く皆さんが吐き気を催すような迷彩服を脱いで、私たちと一緒に本当の意味の平和を求める動きをしましょうよ」

宮古島市議・上里樹さん「戦後の日本のスタートの原点。その原点を守っておけば、宮古へのミサイル基地建設はなかったし、ヘリの墜落事故もなかった」

与那国町議・田里千代基さん「アジアと結ぶ国境の島守としての責任を果たし、アジアと平和にいこうとやっているときに、(与那国島が)要塞化になっていく危険性が高まって、いろいろな問題が迫ってきている」

沖縄と自衛隊(20) 2023年の自衛隊と県民 進む民間使用と日米一体化

わたしたちが見つめてきた沖縄と自衛隊の2023年。台湾有事の懸念が語られる中、防衛力強化の一辺倒な姿勢を見せる政府に対して、求めるべきことは、明確になっています。

ここからは塚崎記者です。ことし一年を振り返って、自衛隊による民間施設の利用が目立ったということですが、新しい動きも出ているようですね。

塚崎記者「有事に自衛隊などが使用することを念頭に、先島地域の港や空港などを 「特定重要拠点」として整備する動きです。与那国町では国などに、比川地区に新しい港を作る計画と、空港の滑走路延長の計画などを要請していますが、国はこの港や空港を特定重要港湾に指定する検討をしているとみられます。」

「野添准教授は、こうした動きについて、有事に港や空港も攻撃対象となるリスクが生じる、という点と、国が整備を補助する代わりに、自治体の意向を無視して、インフラを使用することが生じかねないなどの問題点を挙げていました。」

沖縄と自衛隊(20) 2023年の自衛隊と県民 進む民間使用と日米一体化

自治体の意向、という話が出ていましたが、与那国町はどう考えているのでしょうか。

塚崎記者「はい。糸数与那国町長が県に要請していましたが、その際、こうコメントしました。」

糸数与那国町長「50年に一度、100年に一度のチャンスと思っている」

塚崎記者「この一年間の自衛隊関連の取材、特に離島に行ったときに感じたことですが、生活環境の整備が、沖縄本島に比べて厳しいのは事実です。その中で、国が支援する特定重要港湾・空港整備は離島の自治体からは、魅力的に映ると思います。」

塚崎記者「とはいえ、それは有事や平時の訓練などで、自衛隊などが利用することと表裏一体であり、島々の軍事拠点化につながるものです。」「こうした状況を打開していく上では、国の防衛力強化に利用されることなく、離島の生活条件を改善する方法を、県全体とくに、沖縄本島に住む県民も当事者意識をもって、議論することが必要だと感じています。」

ここまでは塚崎記者でした。シリーズ「沖縄と自衛隊」は来年も継続して、引き続き、南西シフトや有事の問題を取材していきます。