※ 著作権や肖像権などの都合により、全体または一部を配信できない場合があります。

がん患者やその家族が療養に専念しやすい社会を目指す「がん対策推進条例」。この条例を巡って県と患者側との意見の違いのため、制定が遅れています。問題はどこにあるのか。儀間記者です。

沖縄県がん患者会連合会・田名勉会長「私たち患者はあす、あさってどうなるかわからないです。いつ転移するかわからない不安もあります。そのために、この2年間、条例制定に向けて活動もやってきています」

先月、がん患者やその遺族でつくる沖縄県がん患者会連合会の会見が開かれました。連合会では、がん患者やその家族が療養に専念しやすい社会を目指す、がん対策推進条例の早期制定を訴えています。

がん対策推進条例とは各都道府県単位で制定が進められているもので、がん患者への支援やがん医療の充実、がん予防の推進などを基本に、地域が抱える課題に応じて作られる条例です。

沖縄県でもがんによる死亡者は年々増加し、2010年には2700人を超える命ががんにより失われています。

琉球大学医学部附属病院がんセンター長・増田昌人診療教授「いまの日本人の2人に1人がその生涯の中で一度はがんにかかりますし、また3人に1人ががんで亡くなるという時代になっています」

琉球大学病院がんセンターの増田昌人教授は、沖縄県のがん患者が抱える問題は深刻だと話します。

増田教授「離島がすごく多いという意味で、また県民の所得が低いという意味で、どうしても経済的負担というのが、がん患者にとって悩みの種ということになると思います」

増田教授によると、がんを患った場合、患者によってはひと月に数十万円もの医療費を負担しなければならないのが現状。高額の医療費負担は大きな問題となっています。

また、離島地域の場合は治療が難しいため、船や飛行機で沖縄本島の病院に移動する場合が多く、 医療費に加えて、交通費や滞在費がかかり、患者への経済的負担はさらに重くなります。

このような現状のなか、沖縄県も、がん条例制定に向けて動きはじめ、県福祉保健部は去年10月に条例の骨子案を公開。患者会はその骨子案の内容が一部不十分だとして、連絡会や作業部会などを開き、今年の2月定例議会への条例案提出を目標に県とのやり取りを続けてきました。

しかし、県が出した答えは2月定例議会への条例案提出を見送るというものでした。

県福祉保健部医務課・大城壮彦副参事「こうしてほしい、あそこは直してほしいというような意見も多々ありました。そういったこともあって、より良い条例を作っていくためには、もう少し検討が必要ではないかと。そういった事情から2月議会を見合わせた」

沖縄県がん患者会連合会・吉田祐子副会長「いいものが出来ていくだろうと、とっても期待していますし、そうなっていくんだろうと思う。そのスタートにつまづいて、こんなに(制定期間が)長いのは、多分沖縄はもうだめなんじゃないのと、全国から思われていると思います」

患者会の副会長を務める吉田裕子さん。吉田さんは10年前に、子宮頸がんと診断されました。

吉田さん「初期だけど、がんだよって言われたとき、やっぱりよく皆さんおっしゃいますけど、真っ白になるんですよ。母子家庭で、私が働けないと必然的にお金は入ってこない。こんなに長い間、経済的に困ることになるって言うが自分自身も思わなかった。それでも私はまだいいほうだと思います。」

吉田さんは自分自身の経験をもとに、条例の制定に積極的に取り組んできました。

News Photo

現在、患者会が県に求めている条例の内容です。県の骨子に「(~に)努める」という表現が多いなか、患者会は「講ずる」など、はっきりとした支援策をとることを求めています。

大城副参事「がん患者さんの皆さんのための条例でもあるが、我々が目指しているのは一般の県民の皆さんが、がんにかかりにくい生活環境を作っていくためにはどうしたらいいのかということを考えるきっかけにもなるような条例にしたい。そこが一番大きな狙いでもある」

県民全体のがんに対する予防啓発にも条例で力を入れたいとする県。これに対し、一刻も早く治療に専念できる環境を条例で整えてほしいと願うがん患者とその家族の思い。両者の意識の違いが、条例制定を遅らせています。

吉田さん「治療で元気になって社会復帰をすることができる人もいるのに、経済的に薬を飲み続けられないから、もう自分は断念して死ななければならないっていうのが、本当に今の現状なんです」

患者会は県議会にも陳情、各政党をまわってその思いを議員に訴えました。

吉田さん「たくさんの苦しんでいる県民(の思い)を背中にしながらやってきて、作ることが目的ではなく、それを使うことに進んでいきたいと思います。本人が生きたいって思うのであれば、それはお金の問題じゃなく、そこに生きていられる術があるのであれば、それは絶対に何かの形でサポートすべきなんじゃないか。患者のわがままって言われるかもしれないですけど、これは本当に願います」

県は2月議会での条例案提出を見送り、6月定例議会での提出を決めたため、患者会では議員提案を求めています。多くの人が闘病生活を送るなか、一日でも早く安心して治療に専念できる環境を作ること、条例の制定が望まれています。