さて突然ですがこちらの虫、ご存じの方もご存じない方もいるかと思います。これは「ミバエ」という昆虫(害虫)です。
かつて、沖縄ではミカンコミバエやウリミバエといったミバエ類の侵入により、農業に大きな被害を与えていました。
これまで沖縄では、こういった病害虫を殺虫・防除・根絶するための技術が発展してきました。その技術を途上国に伝える活動を取材しました。
国土の周辺を全て海に囲まれた日本。病害虫の侵入を防ぐために、海外から輸入される野菜や果物などの植物類に病害虫がついていないか検疫が行われています。
那覇植物防疫事務所 菊川華織(きくかわ・かおり)さん「植物検疫では、重要な病害虫が発生している国から発生していない国や地域への病害虫の侵入を防ぐために、病害虫が寄生するような奇種植物の輸入だったり移動が禁止されています」
そのため発生地域から持ち出せない植物があります。沖縄では過去にミカンコミバエやウリミバエといった害虫が発生し、果実や苗、ウリ科の植物を県外に出荷することができなくなっていました。
こういった問題を解決するために植物防疫所では、ミバエが寄生する果実の殺虫術を開発しました。その技術を自国に広めたいという人々が研修を受けていました。
今年度はエジプト、モザンビーク、タンザニア、タイ、トンガの5カ国から5人の研修員を受け入れています。
この日は那覇の植物防疫事務所でマンゴーの選別と蒸熱の技術について学んでいました。彼らはJICA沖縄に所属する研修員です。
JICA沖縄 苗村和正(なえむら・かずまさ)さん「JICA沖縄ができた当初から行われている長い歴史のある研修ですし、JICAが今行っている研修の中でも4ヵ月という一番長い期間日本に滞在する研修になっています」
日本政府がJICAを通じて途上国の課題を解決するために、各国の行政官や技術者の方を日本に呼んで、いろいろな分野を学んでいただくという研修を行っています。
この研修は毎年5月から9月までの4カ月間行われ、これまでに45カ国、192人の研修員を受け入れてきました。
那覇植物防疫事務所 菊川さん「今年で38年目を迎える歴史ある研修となっています」
研修員たちは講義による知識の拡充、検疫現場や青果市場の見学のほか、実習によって技術の習得を目指します。具体的に、どの様な技術なのでしょうか。
那覇植物防疫事務所 菊川さん「蒸熱処理技術を使って、ミバエを殺虫する方法を伝えています」
「蒸熱処理」とは、果実の中に寄生している害虫の幼虫や卵を蒸気(スチーム)と熱で殺虫する技術です。
単純に「駆虫する」だけでなく、果実にダメージを与えずにおいしい風味を残したまま輸出や輸入が可能になる処理を行うのがとても重要なのです。
那覇植物防疫事務所 菊川さん「沖縄で実践的な知識や技術を習得できるところが、この研修の大きな特徴になっているのではないかと考えます」
これまでにタイやベトナム、ペルーなどの研修員が自国に戻って殺虫技術を確立し、それまで輸出できなかったマンゴーやマンゴスチン、ドラゴンフルーツといった果物を海外へ輸出できるようになりました。
JICA研修員(タイ)ホムラハッド・ドックラマイさん「私はドックマライです、国はタイです」
タイの研修員、通称ハナさんは自国でまさしくマンゴーなどの果実を輸出する業務に携わっています。
JICA研修員(タイ)ホムラハッド・ドックラマイさん「このプログラムには感銘を受けました。特にスタッフのプロ意識の高さと、講義の構成の明確さが素晴らしいです。理論と実践を組み合わせた内容は非常に有益で私の業務に直接生かせるものです」
JICA研修員(タンザニア)ゥブワンボ・クリスティーナ・ジャスティンさん「私はクリスティーナです。国はタンザニアです」
タンザニアの研修員、クリスティーナさんは(自国では)植物保護農薬庁で植物のバイオセキュリティや検疫・防疫に関する調査や分析を行っています。
JICA研修員(タンザニア)ゥブワンボ・クリスティーナ・ジャスティンさん「最初のころは顕微鏡でミバエの卵がすごく小さいので数える作業が大変だったのですが、今ではスムーズに出来るようになりました。今回学んだスキルや知識を活用して植物検疫官、農家、農業普及に対して病害虫管理について研修を行いたいと思っています」
とても熱心に取り組む研修員たち。ただ4カ月間、自国や家族を離れての研修にはなかなか大変なこともあるようです。
那覇植物防疫事務所 菊川さん「中には1歳未満の子どもを残して来た人もいるので、沖縄での研修の環境をなるべく良くしたいという思いは私たちにもありまして」
ウェルカムパーティーや夏にはビーチパーティーなど様々なイベントを通してコミュニケーションをはかります。
那覇植物防疫事務所 菊川さん「職員と研修員も交えて一緒に歌ったり踊ったりとか、そういうような事をしたり、研修員からは、ここに来るまでは厳しい研修かもと考えていたけど想像していたよりもすごくアットホームな研修だねと言われました」
親しく緊密なコミュニケーションをとりながら食物の安全な輸出入、そして、国際協力に貢献しているのです。
JICA沖縄 苗村さん「英語では『Knowledge Co-Creation Program(KCCP)』といって、途上国の人たちに学んでいただくだけではなく日本側も双方向に学びができるようなプログラムを組んでいただく、ということを力を入れてやっている。より良い世界を目指していくという形で皆で頑張っている」
那覇植物防疫事務所 菊川さん「これからも沖縄で培われた殺虫技術を生かして輸入される果物の安全性の向上を支援していきたいと考えている」
農業生産の安全を図る地道でひたむきな取り組みが、私たちの食卓を豊かに、おいしく彩り、同時に生産国の経済的な発展をもたらしています。
