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アメリカ軍用地の返還に伴い、建物の撤去や有害物質に汚染された土壌の処理といった土地の原状回復に日本政府が使った費用がおよそ129億円に上っていることがわかりました。129億円という多額の費用からは、日米地位協定と返還軍用地に横たわる土壌汚染の問題が見えてきます。

沖縄防衛局から入手した資料。アメリカ軍に土地を提供重い負担が記されています。軍用地の返還に伴い、使われた原状回復費はおよそ129億円にも上っていたのです。

原状回復費という言葉は沖縄返還交渉の際に注目されたことがあります。毎日新聞の記者だった西山太吉さんがスクープした日米の密約。沖縄が復帰する際に、およそ400万ドルを日本政府が肩代わりするというものでした。しかしそれは西山さんと外務省女性事務官とのスキャンダルにすり替えられ問題の本質が長く議論されることはありませんでした。その結果、今も沖縄に暗い影を落としていたのです。

巨額な費用負担の背景には1960年に結ばれた日米地位協定第4条1項の存在があります。「合衆国は、施設及び区域を、それらが合衆国に提供された時の状態に回復し、または、その回復の代わりに日本国に補償する義務を負わない。」つまり、アメリカは土地を返す際、建物を撤去したり有害物質で汚染された土壌を取り除いたりしなくてもよいことになっているのです。

最も費用がかかったのはこちらキャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区です。ここには65億円以上の費用がかかりました。今は更地になっていますが、以前は149戸のアメリカ人住宅が建っていました。

原状回復約129億円 深刻な土壌汚染 地位協定の闇

3年前の返還式典。辺野古反対を掲げ、初当選した翁長知事と菅官房長官が顔を合わせる気まずい雰囲気の中で行われました。

菅官房長官「政府としては、今後も沖縄の基地負担軽減を目に見える形で、実現してまいります。」

しかしーこの土地からは、新たな負担も見えてきました。建物や工作物などが、そのまま返されたため、撤去するのに多額の費用がかかりました。地中からは環境基準を超える鉛や油、そして発がん性が指摘されるジクロロメタンも。日本が背負わされる多額の費用負担について沖縄国際大学の野添文彬准教授は次のように語ります。

沖縄国際大学野添文彬准教授「これまでも既に日本政府は思いやり予算ということで、莫大なお金を払っているわけですけど、日本全体として、大きな負担になっているのではないかと感じました。」

そんな重い返還軍用地の負担に何年も苦労した自治体があります。今は飲食店やホテルが立ち並び、西海岸のリゾート地として賑わう北谷町。かつてキャンプ桑江と呼ばれたこの場所では返還後も次々に問題が発覚しました。

原状回復約129億円 深刻な土壌汚染 地位協定の闇

野国昌春町長は、当時の苦労をこう語ります。野国昌春町長「土地の調査、我々も区画整備事業中に何回も何回もストップするんです。油が出るとか、砲弾が出てくるとか、小銃の弾が出てくるとか。 どんどん使用するのが、後ろにずれていくのに苦労しました。」

防衛局に情報開示請求を行い入手した土壌調査報告書。およそ6500ページに上る報告書には深刻な汚染の実態が記録されています。地中から出てきたのは環境基準を超える鉛や油など。北谷町に提供してもらった写真には、土の中から出てきた軍用車両のキャタピラも写っていました。しかし返還されて15年以上経った今も原状回復が終わっていない所もあります。

北谷町は、土地代が入らなくなり、困っている地主に対し、そこが使えるようになり、使用収益があがるまでの間固定資産税を半額免除する苦肉の策をとっています。これまで町が免除した固定資産税は総額で1億円。大きな負担です。

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野国昌春町長「私からすると、こういった米軍が使った土地は100パーセント調査してもらわないと安心できない。返す前に、調査して、何もありません、安心してお使いくださいと、国が安全宣言して返してもらわないと、これまで北谷町が被ったこと、返還されたときにあってはならないと思います。」

このほかにも日本政府が支払った原状回復費用は恩納通信所でおよそ2億600万円、普天間飛行場東側でおよそ12億2000万円、沖縄市サッカー場で11億円の費用がかかっています。なぜそんな費用負担を背負ってまで、日米地位協定が維持されるのでしょうか。

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沖縄国際大学野添文彬准教授「日本側がアメリカを必要としているから、アメリカが日本にいるというロジックで、日米安保条約ができてしまっているわけですね。」「日本側としては、基地が返還された後、もとに戻してくださいという発言権がないという日米間の構造に、そもそも日米安保ができたときから、なってしまっているということが言えると思います。」「日米関係の構造の中に、沖縄が置かれて、負担を負わされているというのが、こんなにも目に見える形で残ってしまっているということを、   土地の汚染の問題は示しているんじゃないかと思います。」

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129億円という巨額の原状回復費用。しかしそれも「氷山の一角」とみられています。なぜなら沖縄が本土復帰して以降351回にわけて土地が返されていますが、詳細に土壌調査が実施され原状回復がなされたのは19事案のみ。過去に返された土地で、これから返ってくる土地でどんな問題が発覚するのかわからないのです。