番組では1月の放送開始からこれまでおよそ190回にわたって「しまくとぅばで語る戦世」をお伝えしてきました。毎回島の言葉で語られた数々の証言でしたが、そこには共通語ではなく、使い慣れた島の言葉だからこそ沖縄戦を明確に伝える力がありました。
放送をきっかけに「自分の母親の体験も知りたい」と耳を傾けた女性がいます。80年前の記憶と向き合う姿を追いました。
「軍服まで血が流れていっぱい」「死ぬときは一緒だよと」
私たちが1年を通して耳を傾けてきた「しまくとぅばで語る戦世」撮影したのは「琉球弧を記録する会」の写真家・比嘉豊光さんです。1997年から活動を始め、沖縄本島北部から小さな離島まで1000人以上の戦争体験者に会い、その土地の言葉で話してもらいました。
写真家・比嘉豊光さん「戦争当時の記憶が、まさに頭に入ってるから、それで語るから、笑いとか声とかね、表情とかが全然違うんですよ」
多くの証言を記録した中で、比嘉さんの心に深く残っているのが南風原町の神里さんです。
南風原町山川 神里静江さんの証言「私は右半身が押しつぶされ、左手は動くのだが死人が覆いかぶさって出られない。もうムッサイムッサイ!(もがいた)」
写真家 比嘉豊光さん「あの戦世に行って、もう見て、どうしたこうしたと。(もう1回戻っている?)戻っている」
神里さんを始め、南風原出身者が続いた放送を見て、番組に連絡をくれた人がいます。
大城逸子さん「爆弾が落ちて来て」
南風原町喜屋武で生まれ育った大城逸子さん、南風原文化センター・陸軍病院壕の平和ガイドとして、沖縄戦を伝える活動をしています。放送で見た「戦世」の証言者たちとは、よく知った仲でした。
大城逸子さん「この映像を見て、山川の同級生のオカーかと、そんな感じで見て」
大城逸子さん「自分の母も語れるうちにそれを残したい」
大城さんの母・中村トヨさんは現在90歳、沖縄戦当時は10歳で、覚えていることは少ないけれどと言いながらも語ってくれました。
中村トヨさん「学校には行っていたよ、ランドセルもあったよ。お父さんが買ったんじゃないかな」
強く印象に残っているのは艦砲射撃だったといいます。
中村トヨさん「照明弾があがったら、すぐ落ちるよと。すぐ壕のなかに隠れた。トンボ(飛行機)が、あれは偵察機だよと。そのあと照明弾がパッとして、周りが見えて、すぐ落とすんだよ艦砲を」
中村トヨさん「艦砲の破片は、めーぬやー(離れ)に。あっちに4人いたよ。2人は亡くなって私たちは助かった」
壕で隠れていたところを米軍に見つかり、投降を呼びかけられたといいます。
中村トヨさん「(米軍は)『出なさい、カマワン カマワン』と叫んでいた」
中村トヨさん「捕虜に取られて、カバン(ランドセル)を持って行こうとするとオジーが『どうせ殺されるというのにこれを持つのか』と言った。日本軍からは、すぐ殺されると教えられたから」
中村トヨさん「戦争というのは、二度と絶対にしてはいけないと思うんだよ。子どもや、孫たち。これが希望であるわけさ」
長い間、戦争の話には無関心だったという大城さん。沖縄戦と向き合ったのは2007年、48歳のときでした。考えるきっかけをくれたのは娘・ちなみさん。障害がありながらも懸命に生きようとしましたが、17歳でこの世を去りました。
大城逸子さん「2007年に娘が亡くなって、(陸軍病院壕が)すぐ四十九日にオープンだった。すぐ次の一歩を踏み出した自分がいるのは、やっぱり娘が教えてくれた生きること、戦争は意味もなく人を殺してしまう。そんな戦争は絶対させてはいけない」
大切な命を簡単に奪い去ってしまう戦争、命があるのは当たり前じゃないと伝えたい。大城さんは、娘・ちなみさんが気づかせてくれた命の大切さ、そして母・トヨさんから聞いた話をガイドの解説にも交えたいと考えています。
大城逸子さん「教科書にない、学べない沖縄戦の伝え方。そういったのも聞けるうちに聞こうということと、またそれを誰かがまた伝えていけたらいいかな」「ガイドさん、こんなこと言ってたっていうときが、私は絶対来ると思っている。そういったことを期待したい」
80年の時が経ち、戦世を語る人が少なくなっても伝え続ける人が絶えないように。大城さんは、母の記憶をつないでいきます。
1年を通して様々な地域・年代のかたの「戦世」を聞いてきましたが、戦争体験者が日常で話していた言葉で、ありのままで語るからこそ80年前の光景を私たちも一緒に目の前で見ているような気持ちになるなと感じましたし、それが戦争を自分事として考える入り口になるのかなとも思いました。
今回、母トヨさんの話を一生懸命メモを取りながら聞く大城さんの姿を見て、どんなことでもいいから、まず身近な人に聞いてひとりひとりが沖縄戦の歴史を伝えていける人にならなければいけないと強く意識する必要があると感じました。
「たどる記憶、つなぐ平和」は来週が最後の放送です。











































