米国は12月5日までに、欧州経済の安定、戦闘拡大の回避、ロシアとの戦略的均衡の再構築、さらに、ウクライナの国家的持続性確保を柱とする新たな「国家安全保障戦略(NSS)」を公表した。第2次トランプ政権で初の包括的戦略文書となる同NSSは、停戦協議を「欧州経済の安定と戦争拡大となるエスカレーションの抑止」という枠組みに位置付けた。一方、欧州側からは米国の交渉主導に対する牽制が強まっている。独誌「シュピーゲル」は4日、マクロン仏大統領の発言として「安全の保証を明確にしないまま、米国は領土問題でウクライナを裏切る可能性がある。これは極めて大きな危険だ」と伝えた。12月4日から6日にかけて、米国のウィトコフ特使とウクライナのウメロフ国家安全保障・国防会議書記が会談し、停戦後の「安全保障上の枠組み」を中核とする協議を行った。
12月2日、米国のウィトコフ特使、トランプ氏の娘婿であるクシュナー上級顧問らを中心とする米代表団は、ロシア側のウシャコフ大統領補佐官、ドミトリエフ特使、そして、プーチン大統領本人を交え、計5時間に及ぶ協議を実施した。協議終了後にウシャコフ氏は、「非常に有益で建設的」と評価したが、合意形成には至っていない。英BBCは4日、ロシアが難色を示す主要争点は、東部2州(ドネツク、ルハンシク)を含む領土帰属問題に加え、停戦後のウクライナ安全保証枠組みであると報じた。米国は当初28項目の停戦文書を提示し、その後19項目へ縮減したうえで4文書も提出。しかし、「領土割譲」を拒むゼレンスキー大統領と、「ドネツク州からの完全撤退」を主張するプーチン大統領の立場は交錯し、和平の出口は見えていない。プーチン大統領は4日の国営テレビで、「われわれが武力でこれらの地域を解放するか、ウクライナ軍がこれらの地域から出ていくかのいずれかだ」と発言し、譲歩の余地はないとの認識を明確にした。米戦争研究所は、ロシア軍がドネツク州全域を制圧するには2027年8月(約1年9カ月後)が必要との分析を公表し、戦線長期化の可能性を指摘している。
こうした報告を受け、トランプ大統領は3日、「(ウィトコフ特使らが抱いた印象として)プーチン大統領は戦争終結を望み、合意を結びたいと思っているようだ」と述べた。しかし、ウィトコフ特使の「親ロシア的傾斜」を巡って、米政権内外で警戒論が浮上している。トランプ氏は10月12日、ウクライナ側が要求する巡航ミサイル「トマホーク」供与を検討する意向を一時示したが、16日の米ロ首脳電話会談でプーチン氏が「供与は戦況を変えず、さらなる悪影響を及ぼす」と牽制したことで情勢は変化。17日のトランプ・ゼレンスキー会談では、大統領が「トマホークは強力だが非常に危険だ」と供与に慎重姿勢へ転じた。和平協議を巡っては、11月22日に日本、欧州、カナダ首脳が「追加作業が必要」との共同声明を発表した。
ウクライナ情勢の停戦協議が進む一方、その裏側でロシアは凍結資産と資源のカードを通じて米国への影響力行使を強めている。米政治サイト「アクシオス」によると、10月24~26日、米フロリダ州マイアミにおいて、米国のウィトコフ特使とトランプ氏の娘婿クシュナー上級顧問、そして、ロシアのドミトリエフ大統領特別代表が協議を実施した。協議では停戦枠組みを超え、欧州で凍結されているロシアの約3000億ドル(約47兆円)規模の資産活用、さらには北極圏の鉱物資源をめぐる米ロ共同開発構想が議題となったとみられる。プーチン大統領は、こうした協議を通じて、「ロシアを軍事的脅威ではなく、豊富な機会をもたらす国家として認識させること」を米政権に求めているとされる。さらに、同大統領は、「欧州経済地図の再構築を進めると同時に、米国とその伝統的同盟国との間に楔を打ち込むことが可能となった」と意図を滲ませた。
12月2日付のブルームバーグによると、ルビオ米国務長官は、ロシアとの直接対話は不可避としつつも、ウクライナの立場と主権を尊重する必要性を強調。「ロシアと話をせずに戦争を終わらせることはできないが、同時にウクライナの立場も最大限考慮しなければならない」と述べ、停戦交渉における米国の責任を明確に示した。一方、和平協議を主導する米側特使ウィトコフ氏をめぐり、共和党内で批判が高まっている。ベーコン下院議員は11月25日、Xに「ウィトコフ氏がロシアを完全に支持していることは明らかだ。彼が交渉を主導するなど信用ならない。彼以上のロシア工作員がいるだろうか?」と投稿。特使の中立性を疑問視した。
★ゲスト: 小谷哲男(明海大学教授)、ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト)
★アンカー: 末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)
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