中東情勢の緊張が続く中、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の安全確保を巡り、国際社会の対応が新たな段階に入りつつある。トランプ米大統領は3月14日、自身のSNSで、イランによる海峡封鎖の試みに対抗するため、日本を含む各国に軍艦の派遣を求める考えを示した。トランプ大統領は投稿で、「多くの国々、特にイランによるホルムズ海峡封鎖の影響を受ける国々は、同海峡の通行を確保し安全を守るため、米国と連携して軍艦を派遣することになるだろう」と主張した。そのうえで、中国、フランス、日本、韓国、英国などを挙げ、「この人為的な制約の影響を受ける国々が同海域に艦船を派遣し、ホルムズ海峡への脅威を根絶することを期待する」と呼びかけた。また、「我々はすでにイランの軍事能力を100%破壊した」と強調しながらも、「(イランが)壊滅的な打撃を受けていても、ドローンを飛ばしたり機雷を敷設したりする可能性がある」と指摘。米軍については「沿岸部を徹底的に爆撃し、イランのボートや艦船を次々と撃沈し続けるだろう」と述べ、「いずれにせよ、まもなくホルムズ海峡を『開放』し、『安全で自由』な状態にする」と強い姿勢を示した。
こうした中、日本の対応を巡る議論も国会で始まっていた。3月13日の衆院予算委員会では、中道改革連合の長妻昭衆院議員が、高市総理に対し、主要7カ国(G7)がホルムズ海峡での船舶護衛を検討しているとの報道を踏まえ、日本の対応をただした。長妻氏は「日本として国際法上、違法か違法でないかを確認しないと、こうしたことには協力できないのではないか」と質問した。これに対し、高市総理は「自衛隊を派遣するとか、そういったことについては何ら決まっておりません」と述べ、現段階で具体的な派遣方針は決定していないとの認識を示した。また、茂木外務大臣は同日の答弁で、米国の軍事行動の法的根拠について言及し、「アメリカは今回の事態について『国連憲章51条に従って対応している』と述べている」と答弁した。これに関連して高市総理は、「米国の立場や姿勢は明らかになっていない」としたうえで、「国連安全保障理事会の緊急会合における米国の立場も含め、現段階で法的評価を行うことは差し控えている」と説明。「G7各国も国際法上の評価を明確に示すことは避けている国が多いと理解している」と述べた。国連憲章第51条は、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間、個別的または集団的自衛の固有の権利を認めると定めている。さらに、高市総理は前日の12日の答弁で、ホルムズ海峡での機雷除去を目的とした自衛隊の展開についても慎重な姿勢を示した。「機雷などの除去のために事前準備として、自衛隊のアセット(艦船や装備)を近傍に展開することは想定できない」と述べた。
米国とイランの軍事的緊張が中東のエネルギー輸送網と世界市場を揺るがす中、各国政府は石油備蓄の放出や価格抑制策など緊急対応を余儀なくされている。3月13日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場で、WTIは1バレル=98.71ドルで取引を終えた。国際エネルギー機関(IEA)は3月11日、加盟32カ国が協調して過去最大規模となる4億バレルの石油備蓄を放出すると発表した。ホルムズ海峡を通過する石油輸送量の約20日分に相当する。米政府も同日、戦略石油備蓄から1億7200万バレルを放出すると発表。さらに、米財務省は12日、ウクライナ侵攻を理由に科していた対ロシア制裁を一時的に緩和し、タンカーに積載済みのロシア産原油や石油製品について30日間の販売を認めると発表した。
一方、日本でも燃料価格の急騰が続いている。政府は燃料補助向け基金2800億円を活用し、レギュラーガソリン価格が1リットル170円を超える部分を補助する制度を導入。19日の出荷分から適用する。加えて政府は、16日にも国家備蓄と民間備蓄を放出する方針を決めた。民間備蓄は約15日分、国家備蓄は約1カ月分とされる。しかし、対策の持続性には疑問も残る。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏の試算によると、ガソリン価格を170円に抑えるには、政府は1日あたり約40億8000万円の補助が必要とされる。2800億円の基金では約68日分にとどまり、原油価格が高止まりすれば、予算の枯渇はさらに早まる可能性がある。
ペルシャ湾やホルムズ海峡では今月に入り、複数の商船やタンカーへの攻撃が相次いでいる。米CNNによると、11日夜にはマルタ船籍とマーシャル諸島船籍の石油タンカー2隻がミサイル攻撃を受け炎上し、少なくとも1人が死亡した。時事通信によると、同日午前には、ホルムズ海峡を通過中のタイ船籍の貨物船が攻撃を受け、3人が行方不明となった。日本の海運大手「商船三井」も11日未明、同海峡周辺で同社コンテナ船が攻撃を受けたと発表している。さらにCNNは、イランが海峡周辺に機雷の敷設を開始した可能性を報じた。イラン革命防衛隊海軍のタンシリ司令官は13日、「ホルムズ海峡を閉鎖する戦略を維持する」と述べ、侵略者への強硬対応を警告した。米国とイランの軍事的緊張が一段と高まる中、トランプ大統領は3月13日、イラン南西部のカーグ島に対し米軍が大規模な爆撃を実施したと発表した。トランプ大統領は、「軍事目標はすべて破壊された」と述べ、作戦の成功を強調した。カーグ島はペルシャ湾に浮かぶイラン最大級の石油輸出の拠点で、同国の原油輸出の約90%を担うとされる。一方、イラン政府は3月7日、ホルムズ海峡近くのゲシュム島にある淡水化プラントが破壊されたと発表した。
こうした事態を受け、海運業界からはタンカー護衛を求める声が高まっているが、米政府の対応は揺れている。ヘグセス国防長官は13日、機雷敷設について「明確な証拠は得られていない」と述べた上で、米海軍が攻撃リスクを理由に護衛要請を拒否したケースがあると報じられている。一方、トランプ大統領は13日、米海軍によるタンカー護衛について「間もなく実施される」と表明。ベッセント財務長官は12日、「軍事的に可能となり次第、米海軍は有志国とともに護衛するだろう」と述べ、海上輸送の安全確保に乗り出す方針を示した。ただ、大統領自身の発言は一貫していない。トランプ氏はこれまでSNSで「機雷を敷設すれば前例のない規模の攻撃を行う」と警告する一方、「機雷はないと思う」とも発言するなど、強硬姿勢と慎重姿勢の間で揺れている。こうした状況の中、トランプ政権にとって最大の政治リスクとなりつつあるのがガソリン価格の急騰。米自動車協会(AAA)によると、全米の平均ガソリン価格は2月27日の1ガロン2.982ドル(約474円)から、3月13日には3.630ドル(約577円)へ上昇。わずか2週間で約22%の値上がりとなり、エネルギー価格の高騰が家計を直撃している。トランプ大統領は12日、自身のSNSで「米国は世界で断トツの産油国。原油価格が上がれば、儲かる」と強調した。
中東で続く米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦を巡り、戦争の終結シナリオが見えない状況が続いている。焦点となっているのは、イランの新たな最高指導者の存在だ。死亡した最高指導者ハメネイ師の後継として、次男のモジタバ・ハメネイ師が選出された。モジタバ師は革命防衛隊との結びつきが強いことで知られている。イスラエルも警戒を強めている。ネタニヤフ首相は12日、「テロ組織の指導者に保険をかけるつもりはない」と述べ、モジタバ師を含むイラン指導部への強硬姿勢を鮮明にした。米国務省はすでにモジタバ師に関する情報提供に1000万ドル(約16億円)の報奨金を提示している。これに対しイランのペゼシュキアン大統領は11日、SNSで「イスラエルと米国が始めたこの戦争を終わらせる唯一の方法は、イランの正当な権利を認め、賠償金を支払い、侵略が再発しない国際的保証を与えることだ」と主張した。英紙「ガーディアン」は10日、イランのアラグチ外相が「トランプ大統領が一方的に勝利を宣言しても戦争を終わらせることはできない」と述べたことを伝えた。米シンクタンクの「外交問題評議会(CFR)」のリチャード・ハース名誉会長は13日のCNNで、「イランは米国やその同盟国よりも長期戦に耐えられると判断している」と指摘した。軍事力では劣るものの、海上交通の攪乱や地域のエネルギー施設への攻撃などを通じ、戦争のコストを引き上げる戦略を取っている可能性があるという。
中東情勢の緊張が高まる中、日本政府は近く予定される日米首脳会談を前に、防衛政策の在り方を巡る議論に直面している。英ロイター通信によると、高市総理は3月9日、防衛費について「現時点で米側から防衛費のGDP比について具体的な数字の提案があったということは一切ない」と述べ、米国から直接的な増額要求は受けていないとの認識を示した。トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、GDP比5%の防衛費を求める考えを示しており、日本への要求が強まる可能性も指摘されている。仮に、防衛費をGDP比5%まで引き上げた場合、財政規模は大きく変わる。衆院予算委員会で12日、財務省主計局長は「機械的な計算」と前置きした上で、GDP比3.5%の場合は約24.2兆円、GDP比5%なら約34.6兆円になるとの試算を示した。現在の2026年度防衛予算は約9.4兆円であり、GDP比5%の水準となれば、規模は現在の3倍以上に膨らむ計算になる。
★ゲスト: ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト) 、斉藤貢(元駐イラン大使)
★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)
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