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脳梗塞や脳内出血などで、脳の言語中枢がダメージを受け、言葉で意思を伝えにくくなる病、「失語症」をご存じでしょうか。患者が、言葉を取り戻すには、病院を退院した後も、専門家による長期的なリハビリが必要なのですが、なかなか実現できていないのが現状です。そんな中、県内で唯一の失語症専門の小規模デイサービスが、奮闘を続けています。

男性スタッフのコント「さあ、会社へ出勤。えー、ストッキング、これ?なんか、毛が生えてないですか?」

一瞬、お笑い劇のようですが、実は、この男性は介護のプロ、介護福祉士。いま海外で大人気という商品をはじめ、最近の気になるニュースをコントにして伝えていたのです。見ているのは、脳梗塞や脳出血などにより、言葉を聞いたり、話したりといった言語能力に障害をもつ「失語症」の人たちです。

久場さん「失語症というのは、言葉の障害ですので、やっぱり情報入手できない。テレビニュースをみていても、新聞読んでいるように見えても、なかなか詳しいところは理解していなくて、それをまずはニュースで私たちが分かりやすく」

言葉のリハビリをサポートする言語聴覚師の久場範子さんです。県内で唯一の失語症者のための小規模デイサービス、くばの葉を2年前に立ち上げました。

利用者は多くても一日10人程度。共通の障害を理解し合える仲間と出会い、その人らしく生きられる場所を目指しています。立ち上げに協力したのは、同じく介護の仕事をしてきた夫・秀人さんです。

久場さん夫妻 範子さん「最初ね、結婚したときすぐ言っていたんですよ、デイサービスいつかやろうね、って。基本、私の言うことあんまり反対しないよね?」秀人さん「反対しても、理論で返ってくるので。反抗できません。」

久場さんと嘉数さん「楽しかったですか、違いますか?」「単語を書いて、イエス、ノーか。失語症の人、全部うんって言っちゃうので、あと誘導尋問されやすので、ちゃんと反対の質問もするっていう」「嘉数さん、今日はどうでしたか?まる?ばつ?どっち?○、はい。」

利用者のひとり、嘉数弘一さん。3年前に脳梗塞で倒れ、失語症になって以来、言いたいことを言葉で表現するのが難しくなりました。

大矢「Q今までタクシードライバーだったじゃないですか。」嘉数さん「はい」大矢「Q失語症になってから生活が変わりましたか?」嘉数さん「生活・・・違う」

支える家族にとって一番の悩みは、長期のリハビリでした。

嘉数さんの妹さん「病院は1月5日にもう退院しないと、別の施設に移らないとと言われて、ちょっと施設あちこちあたったんですけど、いくところがなくて」

行き場のない、失語症の人たち。そんな医療現場の現実を、かつて、県内の大きな病院に勤めていた範子さんも目の当たりにしてきました。1997年、介護保険法が成立し、これまで病院で行われていたリハビリが、その他の施設でも出来るようになりました。しかし一方で・・・

くばさん「私は病院に就職して、それまで10年も外来で言語のリハビリ通ってきた人たちをもうおうちでリハビリしてくださいという風に、促すかかりだったんですね。でも彼らが言うには、もっと言語リハビリを続けたい。どうすればいいんですか、と聞かれて、私は言葉につまって、受け皿がないなとすごく痛感して・・・」

受け皿のないまま病院を出された失語症者たちは、社会の中で多くの苦しみを味わってきました。

「市役所で失語症者への福祉サービスはありませんか、と尋ねたら『失語症は身体障害じゃないし、歩けるのでいいですよね。福祉サービスは何もありません』と言われた」「大変さは他の障害にヒケをとらないのに、表に現れない障害は、社会的に認められていないように感じる」

そんな中、今月初め、宜野湾市で失語症者の全校大会が開かれました。全国各地で言語リハビリを受けているおよそ300人が集まりました。

茨城県立健康プラザ管理者・大田仁史さん「過去の自分のことばかり思い出して、元気であったころはどうだったか。そういう地獄へ失語症の患者さん一度みんな入っているんですよ。やっと這い上がってきた、ここにいる人。」

長い間、失語症のリハビリに関わってきた、大田仁史さん。病院を退院した後こそ、長期的なリハビリが必要だと訴えています。

大田さん「この人たちがよくなっていくにはね、よくなるというのは、元気を取り戻していくには、期間がかかるの。医療が終わったあと、そのあとずっと引続いてサポートしてあげる体制っていうのは、必要になってくるんですね。」

一方で、範子さんは新たな問題に直面していました。去年の介護保険改正で、国は、小規模デイサービスの運営時間枠を変更。長時間のサービスを求めるようになり、スタッフの人件費は増加しました。

久場さん「小規模が圧迫されるというのは、実際にあるんですけれども、逆に必要なんじゃないかな。本当にその人らしさを考えたら、小さなところもうまくやっていける仕組みがほしいなって。

失語症というのは、誰にでも起こり得る、大変な障害であるのに、まだまだ一般的に知られていないし、見た目で分からないからこそ、社会的なサポートが遅れてしまいがちになる。だから久場さんのように、小規模で、手厚いサポートをしていかなければいけないのですが、今度ますます高齢化が進み、介護や医療の問題が深刻化することが目に見えているからこそ、そういう小規模のデイサービスをサポートする取り組み作りを今度は、当事者だけでなく、地域、社会、国のレベルで考えて行かなけばならないと考えさせられます。