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ある日突然、言葉が理解できなくなったり、話せなくなったら、あなたはどうしますか?脳梗塞や脳内出血などで、脳の言語中枢にダメージを受け、言葉で意思を伝えにくくなる病、失語症を抱えている人たちがいます。取材でわかったのは、私たちが普段あまり意識することのないコミュニケーションをめぐる障害の苦しい現実でした。

浦添市に、趣味の家庭菜園を楽しむ男性がいます。

照屋寛さん「(Q:今年のじゃがいもの出来栄えはどうですか?)最高!最高!」

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照屋寛さんです。17年前のある日。定年退職を迎えたばかりの照屋さんは、予想もしなかった出来事に襲われました。

照屋つるこさん「午前0時でした。異様ないびきで私が気づいた。どうしたの?って言ったら、よだれがいっぱいなんです。先生としては、脳内出血」

左脳に大量の出血。一命は取り留めたものの、体に麻痺が残りました。しかし、家族を驚かせたのは、入院から半年後に言い渡されたもうひとつの後遺症でした。言葉を話したり、文字の読み書きが困難になる病「失語症」だというのです。

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照屋寛さん「(Q:最初に失語症になりましたと言われたときはビックリしましたか?)ビックリした」

これは脳内出血で倒れる以前の照屋さんの文字です。そして、これが退院から数年後、再び書き始めたころのものです。

この「失語症」とはどんな病気なのでしょうか。照屋さんの言語訓練を担当する言語聴覚士を訪ねました。

言語聴覚士・屋良朝子さん「脳に言語中枢があります。障害を受けた場合にこのような状態になります」

失語症の原因は90%以上が脳卒中です。言語野のどこがダメージを受けたかによって、様々なタイプの障害が生まれます。照屋さんのように、前頭葉の一部が損傷すると、人の言うことはある程度分かっても、自分の意思を言葉で表現することが難しくなります。

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言語聴覚士・屋良さん「外国に行ったような感じ。お話したくても言えない。用事を済まそうと思ってもできない。ぽつんと置かれてしまう。助けも求められないという感じでしょうか」

さらに多くの人に共通しているのは、言いたい言葉はわかっていても、全く違う言葉が出てしまう症状です。

照屋つるこさん「もうお昼なのに『おはようございます』とか言ったらショックなの、自分でも『あ!』って。わかってるけれども、発するのと思ったところが全然反対のこと」

照屋寛さん「(Q:奥さんの話とか、家族の話はよくわかりますか?)わかる。(Q:話すのが難しい?)うんうん。イライラする」

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これは、全国の失語症者が実際に体験した、悔しい出来事をまとめた文集です。

『タクシーに一人で乗った時、行先がうまく言えず、なじるような口調で侮辱的なことを言われた』『高齢者の認知症と間違えられて悔しかった』

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30代でアメリカの大学院に進学したり、毎年フルマラソンに挑戦したりと活動的だった照屋さん。失語症になってから、人前に出たがらなくなっていきました。そんな照屋さんの支えになったのが、同じく失語症を抱える仲間たちでした。

佐久川さん「(Q:佐久川さん、今日の調子はどうですか?)電話線が飛んでます!」

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口から発するのは言いたいことと全然違う言葉。そんな共通の症状を理解し、笑いあえる仲間とここで出会いました。

照屋寛さん「サンキューベリーマッチ!」照屋さん、得意の英語であいさつです。

しかし、サークルを立ち上げたひとり、大城貴代子さんは、失語症をめぐる社会の環境はいまだにとても厳しいといいます。

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以前、県の福祉部長だった大城さん。ある日突然、夫が脳梗塞に倒れ、失語症になりました。福祉行政のトップであるにもかかわらず、当事者の家族になってみて初めて、福祉制度の複雑さに直面しました。

大城貴代子さん「福祉の制度の難しいこと。とてもじゃないけど理解できないですよ。目の前は真っ白になっている時に、説明しましたよと言われても、わからないですよね」

介護のために仕事をやめた大城さんは、栄徳さんと一緒の時間を過ごす中で、失語症特有の課題に気づきました。

大城貴代子さん「目の不自由な人には点字がある。耳の聞こえない人には補聴器がある。だけど失語症にとっての器具がない。コミュニケーションの障害というのが、いまの私たちにとって軽く見られているということに初めて気が付いた」

最先端の医療も、失語症者をサポートする器具もない現実。照屋さんにとってこの社会はどう見えているのでしょうか。

照屋寛さん「(Q:街の中とかでこういうところを変えてほしいなというのはありますか?)徐々に良くなってるね」照屋つるこさん「胸が熱くなってるんじゃない?言えなくなってる。涙ぐんでいる」

頭の中では伝えたいことはわかっているのに、言葉にならない。海外旅行で外国語が話せなくて、似たような経験をしたことがある人なら、そのもどかしさもわかりますが、失語症の人たちは日常的に経験しているということですね。

大矢記者「私たちにとって言葉は水や空気のように当たり前のものですが、私も取材を通じて、ある日突然、失われる可能性のあるものなのだと気づきました。実はことし6月には、全国の失語症者が集まる大会が沖縄で開かれます。失語症者だけでなく、あした言葉を失うかもしれない私たちにとって、本当に暮らしやすい、優しい街とは一体どんなものでしょうか。考えはじめるきっかけになりそうです」

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私たちはどんな風にサポートできますか?

大矢記者「失語症の人の多くは、このようなカードを携帯しています。このカードをみたら、ゆっくりはっきり話したり、『はい』や『いいえ』で答えられる質問をしてください。また、文字を書いて伝える場合、ひらがなよりも漢字の方がわかりやすいという特徴があります。そして一番大事なのは、本人の言葉が出るまでゆっくりと待ってください」

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