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犯罪被害にあったつらさ、悲しさ、悔しさ、怒りは息子しか語れないんじゃないかと思います。でもこの子はもう二度と語ることはできません。中学生を対象にした「命の授業」。2年前から、県内16の中学や高校で実施されています。この日、生徒たちの前に立ったのは集団リンチで息子を亡くした母親。少年たちによる暴力事件が後を絶たない中、彼女が訴えたことは・・・

県内各地で相次いでいる少年たちの暴力事件は私たちに大きな衝撃を与えました。こうした中、子どもたちに「命の大切さ」を知ってもらおうと全国の学校で講演をしている女性が県内の中学校を訪ねました。彼女の活動を取材しました。

具志頭中学校を訪ねたのは岡山県の市原千代子さん。今回の沖縄訪問には複雑な思いがありました。

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市原さん「色んな思いを抱えて、来させていただいたというか、来る直前にああいうことが起こると思っていなかったので。」

市原さんが語るのは先月、うるま市で発生した、中学生8人による傷害致死事件。事件には日ごろからの「いじめ」が深く関係していて、それは10年前、市原さんの息子、圭司さんの命を奪った事件と重なるものでした。

市原さん「日ごろの態度が生意気だ、横柄だ、そういう因縁をつけて、殴る、蹴る、川に蹴りこまれる暴行を受けました。暴行自体は凄惨なものでした。」

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事件の後、市原さんは司法制度の改正や同じように犯罪被害にあった人たちの支援のための活動をしています。中でも力を入れているのが全国の学校や少年院などで行っている命をテーマにした講演活動。去年だけで80回以上をこなしました。

市原さん「事件が起こった直後に、子どもたちを被害者にも加害者にもしたくないと思ったんですね。それと同時に、私のような悲しい思いをする母親もいらないと思ったし。」

今回の沖縄のケースのように、少年たちが起こす痛ましい事件のニュースを聞くと、無力感にさいなまれることもあるといいますが、それでも「命の大切さ」を訴え続けることは亡くなった息子が母親である自分に託した課題だと感じているといいます。そんな市原さんが講演で必ず、子どもたちに呼びかけていることがあります。

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市原さん「ちょっと手を合わせてもらってもいいですか?そういう風に、手を合わせたり、握ったり、握り返したりできることは生きているということです。いま、私は圭司の手を握り返すことはできません。それが死んでしまうということです。」

自分や友だちの手の温もりを感じることで、生きているということを実感してほしい、そして、その手で、人を痛めつけるようなことをしないでほしいという思いからの呼びかけです。

市原さん「自分自身を大切に思えていない子どもたちが多いと感じているような気がするので、あなたの命は大切だということをもう一回再確認してほしいということを伝えたいと思っているので。」

生徒「自分も辛いときがあって、生きたくないと思うことがあったんですが、いじめで亡くなった人のことを考えると、自分も命を大切にしなきゃと思いました。」生徒「自分には関係ないと思ったけど、沖縄でもあって、やっぱ自分たちのこととして、これから考えていかないといけない問題だと思いました。」

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「命の授業」を主催している県警は子どもたちの反応をこう感じています。

県警宮城室長「身近な人たちを亡くされているので、伝える思いが、子どもたちは感性豊かですので、ストレートに入ってきている感じを受けます。」

市原さんは講演の最後に、生徒たちにこう訴えました。それは彼女が一番、子どもたちに伝えたいこと、母親からのメッセージです。

市原さん「どんなに辛くても、悲しくても、おじいちゃん、おばあちゃんになって、寿命が尽きるまで、生きて生き抜いてほしいと願っています。圭司のように、途中で命を落とすことなく、与えられた寿命を全うしてほしいと思います。」

市原さんのほかにも「命の授業」には4人の遺族が講師として参加しています。家族を亡くした体験を語ることは何年経っても辛いそうですが、二度と同じことが起きてほしくないという思いで、子どもたちと向き合っているのだといいます。

最初はちょっとした「意地悪」や「ケンカ」のつもりでも未熟な子どもたちだからこそ、取り返しのつかない事態にまでエスカレートさせてしまうというケースが多いわけで、子どもたちには日頃からなぜ暴力がいけないのか、命がどんなに大切かを繰り返し言い聞かせたいと思います。