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ブラジルリポート、今日は3回目です。これまで一世のあゆみ、そして活躍する二世の姿を紹介してきました。

いまブラジルが抱える社会現象「デカセギ」という言葉をご存じでしょうか。80年代後半からブラジル全土に広がった日本への労働力の流出のことで、日系・非日系も含め、多くの人が日本にわたっていますがこの「デカセギ」、日系社会の今後にも大きく影響しそうです。

サンパウロから北東へ120キロ、タウバテ市。人口25万人のうち、およそ2000人の日系人が暮らしています。

浦添市出身の大城工さんは、JICAボランティアとして、去年からこの町で日本語教師をつとめています。日系人を中心に、3歳から50代まで生徒は40人。

大城さん「若い子どもたちだと、もう家で日本語を話すことは全くないし、学校でも話しません。週に一回、ここに来て勉強してそれで終わり。自然に習得していくのは難しいと思います」

ブラジル日系社会では、いま日本語は急速に失われつつあります。日本人としてのルーツ、そしてアイデンティティの回復のため、日本語習得の必要性を訴える声は早くからありました。しかしいま、日本語の必要性は「外国語」としての習得です。

大城さん「日本に行った時に、顔は日本人なのにポルトガル語しか話せないとなると、行った時にすごく困ると思う。実際、困った経験された人もいる」

ブラジルではいま、若い世代を中心に日本に働きに出る「デカセギ」が社会現象化しています。その数はおよそ30万人ともいわれ、二ホン語を習得して日本で働きたい、暮らしを円滑にしたいという人が断然多いのです。

きっかけはデカセギだとしても、学んだ日本語がいつか自分のルーツを考えるきっかけになればと、大城さんは考えています。

大城さん「『自分が日系人だから日本語を勉強する』というのは、自分でしか気付けないと思う。日系人として、自分のルーツである日本の文化や言葉を勉強する意味を考えるきっかけになってほしい」

デカセギの問題は、ブラジルの小さな都市で確実に広がりつつあります。バストスは80年前に日本政府が移民を促進し、日系コロニアとして作った町です。綿花や養蚕、養鶏などで街は栄え、かつて人口の9割は日本人でした。

宮良長さん「バストスも田舎で、過疎化・若い層の空洞化が進んでいる。それがどんどん続いて、デカセギで日本にも流れていく」

バストス地域資料館で、学芸員として資料の整理を行っている宮良さんも、若い世代の空洞化やデカセギの現実を指摘します。高齢化もすすみ、現在バストスの日系人は人口のおよそ一割。移民の歴史の貴重な資料を集めたこの資料館ですが、いまや非日系の人が多く暮らすかつての「日本人の町」で、資料館のあり方を考える毎日です。

宮良さん「日系の方々じゃなく非日系の方々も見て、自分たちの歴史として、日系人・日本人の歴史じゃなく、町の、バストスの歴史として受け入れてもらうために、この町を開拓した人の初期のころの苦労の積み重ねをどう伝えていけるか。それを形にしていく作業は難しい」

先人が残した100年の歴史をどう伝え、そして日本語教育をどう考えるべきか。いま日系人社会全体がかかえるこの問題に、若い二人が取り組んでいます。

これまでの移民の歴史、そして現在かかえる問題までを伝えてきたブラジルリポート。さらに詳しく特別番組でお送りします。『夢の大地の100年』は10月4日の放送です。